下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる
夏子さんによると、伊吹くんはおじいさんと初めて会見した後、お母さんにこう話していたそうだ。
『若宮のじいさんに会ってきた。じいさん達は父さんと母さん、そして俺のことを認めてくれるって。それで母さんの治療費や俺たちの生活費を支援してくれるそうだよ』
この話にお母さんは驚きや疑いの念を抱いたが、後日、若宮のご祖父母が揃ってお見舞いにやって来たという。
夏子さんが驚きや緊張のあまり具合が悪化してしまわぬよう、病院の指示を仰ぎながら丁重に進めたというのは伊吹くんの説明だ。
そしてお母さんの体調が快方に向かってから、伊吹くんの若宮家への婿養子の話になったのだそうだ。
「この子を手放すことには、そりゃあ抵抗があったわ。いくら夫の実家で、伊吹にとっては祖父母であっても」
夏子さんの胸中には当時も現在も複雑な感情が入り混じっているはずだ。私などが押して図れるものではない。
「だけど、この子は元々若宮の家に生まれてくるべきだったはずだし、あの人の代わりにホテルを継いでくれるのは嬉しかったのよ」
夏子さんの言う『あの人』とは、夏子さんの夫、伊吹くんのお父さんのことだ。
「あの人はずっとホテルのことを気にしていたわ。伊吹の名前だってホテルから付けていたのよ。『グリーン』と『ヴィリジアン』から連想する『春の息吹』、そこから『伊吹』とね」
「そうだったのか……!?」
命名の話は伊吹くんにとっても初耳だったようだ。
「だけど伊吹の誕生日は10月31日だから春ではないんだけどね。養子に行ってもしょっちゅう会いに来てくれるし、あるのは戸籍上の変化だけで、私たち親子の関係性には何の変りもないわ。」
懐かしみながら話す夏子さんの表情は幸せそうだったので、そっと胸をなで下した。
『若宮のじいさんに会ってきた。じいさん達は父さんと母さん、そして俺のことを認めてくれるって。それで母さんの治療費や俺たちの生活費を支援してくれるそうだよ』
この話にお母さんは驚きや疑いの念を抱いたが、後日、若宮のご祖父母が揃ってお見舞いにやって来たという。
夏子さんが驚きや緊張のあまり具合が悪化してしまわぬよう、病院の指示を仰ぎながら丁重に進めたというのは伊吹くんの説明だ。
そしてお母さんの体調が快方に向かってから、伊吹くんの若宮家への婿養子の話になったのだそうだ。
「この子を手放すことには、そりゃあ抵抗があったわ。いくら夫の実家で、伊吹にとっては祖父母であっても」
夏子さんの胸中には当時も現在も複雑な感情が入り混じっているはずだ。私などが押して図れるものではない。
「だけど、この子は元々若宮の家に生まれてくるべきだったはずだし、あの人の代わりにホテルを継いでくれるのは嬉しかったのよ」
夏子さんの言う『あの人』とは、夏子さんの夫、伊吹くんのお父さんのことだ。
「あの人はずっとホテルのことを気にしていたわ。伊吹の名前だってホテルから付けていたのよ。『グリーン』と『ヴィリジアン』から連想する『春の息吹』、そこから『伊吹』とね」
「そうだったのか……!?」
命名の話は伊吹くんにとっても初耳だったようだ。
「だけど伊吹の誕生日は10月31日だから春ではないんだけどね。養子に行ってもしょっちゅう会いに来てくれるし、あるのは戸籍上の変化だけで、私たち親子の関係性には何の変りもないわ。」
懐かしみながら話す夏子さんの表情は幸せそうだったので、そっと胸をなで下した。