サイレント&メロディアス
世界的に有名なアニメ映画の主題歌だった。
さおりさんは器用にハーモニカを吹きながらピアノを弾く。とても楽しそうに。童心に戻ったように。
会場が手拍子をする。さおりさんがときどき、両手を上に上げてその手拍子をあおる。明るい笑顔で。
お姉さんたちも楽しそうに手拍子をしている。俺もひかえめに手拍子をした。ここがさおりさんだけのリサイタル会場だったら、
うちわとペンライトをガンガン振っていたかもしれない。まわりに迷惑にならない程度に。
小さな子どもが歌いはじめて親が小さくこらっとたしなめる声も聞こえた。それきり子どもの歌声が聞こえなくなってしまった。
さおりさんはそれに気づいたのだろう。そちらの方向、舞台から見て右側の席を見て大きくうなずく。「歌っても良いんだよ」と言いたげに。だが、歌声は聞こえない。きっと、親に怒られて萎縮してしまったのだ。その子は。
とても知られた曲だし、年齢問わず人気のある曲だ。その子だって本当は歌いたいだろうし、その子が歌えばまわりも歌いだすだろう。さおりさんはずっとその子の方を見てほほ笑んでいる。ピアノを弾き、ハーモニカを奏でながら、その子が歌いだすのを、会場が歌いだすのを待っている。
(歌って良いんだよ。頑張れ!!)
俺も心の中でそう念を送る。会場全体がきっとそう思っている。歌いたいひとだっているはずだ。たとえどんなに小さな声だったとしても。心の中でだって。
さおりさんがふんわりとした色のピンクに染めた口を開いた。
ので、
恥ずかしながら、俺は歌いだした。歌にはあまり自信がないけれど、さおりさんのために歌った。
さおりさんは器用にハーモニカを吹きながらピアノを弾く。とても楽しそうに。童心に戻ったように。
会場が手拍子をする。さおりさんがときどき、両手を上に上げてその手拍子をあおる。明るい笑顔で。
お姉さんたちも楽しそうに手拍子をしている。俺もひかえめに手拍子をした。ここがさおりさんだけのリサイタル会場だったら、
うちわとペンライトをガンガン振っていたかもしれない。まわりに迷惑にならない程度に。
小さな子どもが歌いはじめて親が小さくこらっとたしなめる声も聞こえた。それきり子どもの歌声が聞こえなくなってしまった。
さおりさんはそれに気づいたのだろう。そちらの方向、舞台から見て右側の席を見て大きくうなずく。「歌っても良いんだよ」と言いたげに。だが、歌声は聞こえない。きっと、親に怒られて萎縮してしまったのだ。その子は。
とても知られた曲だし、年齢問わず人気のある曲だ。その子だって本当は歌いたいだろうし、その子が歌えばまわりも歌いだすだろう。さおりさんはずっとその子の方を見てほほ笑んでいる。ピアノを弾き、ハーモニカを奏でながら、その子が歌いだすのを、会場が歌いだすのを待っている。
(歌って良いんだよ。頑張れ!!)
俺も心の中でそう念を送る。会場全体がきっとそう思っている。歌いたいひとだっているはずだ。たとえどんなに小さな声だったとしても。心の中でだって。
さおりさんがふんわりとした色のピンクに染めた口を開いた。
ので、
恥ずかしながら、俺は歌いだした。歌にはあまり自信がないけれど、さおりさんのために歌った。