幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜
星祭りの前日の夜、恋の母親は部屋のクローゼットの箪笥から恋の浴衣を出していた。
「お母さん、あった?」
部屋の戸口から、自分の部屋からやって来た恋が顔を出した。
「あったわよ。春に畳んでしまっておいたもの。ちゃんと干して、毛玉取りしてから着なさいね。」
「分かってる」
「宗介くんとデートなんて、良いわね。二人きりで行くならお洒落していかないと。可愛く作って行きなさいよ。」
「デートじゃないったら」
恋は部屋に入って、母親と一緒に浴衣を見た。
今年親戚の人に貰ったばかりの新しい浴衣は、緑色の地に華やかな金魚の模様が描かれている。
「デートよ。宗介くん昔っからあなたの事大好きなんだから。いつもいつもあなたばっかり気にしてくれて。ありがたく思いなさい。」
母親の言葉に、恋は戸口に寄りかかって、宗介を思い浮かべた。
昔から恋は、宗介にはどうにも頭があがらない。
想像の中の宗介は、恋を脅す時の笑顔で「言う事聞かなかったらどうなるか分かってる?」と言った。
「早いもので二人とももう来年は中学生だし、楽しみね。明日は晴れるって。いいお天気なんて良かったじゃない。頑張りなさいね」
微妙な顔をしている恋に、恋の母親は浴衣をハンガーに下げながら笑った。