幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜



 
 朝のホームルームと1時間目は、学芸会の出し物を考えるのにあてられた。


「先生、今年の学芸会の出し物は、演劇が良いと思います。」


 手を挙げて理央が言うと、先生は頷いた。



「駒井さん、ありがとう。先生も演劇でも良いと思いますよ。後は演奏か合唱か。」

「みんな、演技って普段絶対にしないし、いい記念になると思うよ。」


 
 クラスメート達が面白がって投票したので、学芸会の出し物は演劇に決まった。

 
「それでは演劇ですが」

 
 先生が言った。


「次は演目です。」


 生徒たちは口々に意見を出し始めた。
 


「ラブストーリーが良い。キュンキュンな。胸に来るやつ。」

「わくわくする筋のやつが良いよ。ハラハラドキドキ。サスペンスな。」

「冒険ものはどう?。楽しそうじゃない?」

「俳優が沢山出てくる方が面白いよ。派手だもん。」



 生徒の一人が立ち上がって言った。



「じゃあ、『姫と王子の休日』はどうでしょう?」

「静かに。」



 先生が言って、教室が静かになる。



「先生も聞いた事があるな、それは。お姫様と王子様が家来達を出し抜いて自由になるという筋の話でしょう。」

「はい。」



 生徒が言った。



「あのシナリオ、山場のシーンで、クラスメート全員で演技することができるんですよ。」

「全員!」

「それは面白いな。」



 演目はすぐに『姫と王子の休日』に決定した。


「それでは次は俳優などの役どころ決めです。」


 黒板を背に先生が言うと、教室から黄色い声があがった。


「先生!王子様役には、上野くんが良いと思います!。」


 宗介は自分の席で頬杖をついたまま怒り笑いをした。

  
「冗談。誰が演技なんか。」



「先生!王子様役は樋山くんで決定ですよ!」

 次に美風のファン達の歓声があがると、美風も自分の席でうんざりした顔をした。



「僕だって。何が悲しくて演技なんか。」

「えーどうして、似合うのに。絶対かっこいいって!」
 
「だって樋山は金髪だろ。そのものになっちゃうよ。」

「樋山くんの王子様姿超見たい。超ときめく!」

「先生も樋山くんは王子役が似合うと思います。」



 ついには先生まで本音を言ったので、教室はてんやわんや。


「ちょっと待って。どうしても僕を王子役にするつもり?」

 わあわあ言ってるクラスメートに、美風が心底迷惑そうに尋ねた。



「だってお前そのままじゃん。恨むなら自分の容姿を恨めよ。」

「樋山くん絶対似合うよ。かっこいいって。保証する。」

「青い目じゃないのがちょっと惜しいけど金髪だし。グレーの瞳のプリンス、なんて逆にいかしてない?。美麗!。」

「ってかルックス王子じゃん」



 どうしても自分を王子役に据えようとするクラスメート達に、美風はしかめっ面で口を開いた。



「じゃあ良い。やれっていうならやるけど、条件がある。」

「条件?」



 美風が口を開いた。


「新田さんをお姫様役にしてくれるならやります。」


 教室は盛り上がった。

 

「きゃー!急展開!」

「それは愛の告白?。樋山くん。」

「学芸会で近づくなんてロマンチック!。新田さんも美人だもんね。」

「えっじゃあちょっと待って。上野くんはどうするの?」

「知らない知らない。上野くん怖い顔で恋の事見てるよ。」

「えええ……」


 
 話が急に自分に向いてきたので、恋狼狽えて上を見上げた。


 
「やるよね?新田さん。」
 
「どうしますか?。先生も、新田さんはお姫様役が似合うと思いますよ。」 



 恋の否定の言葉は、クラスメート達にかき消され、恋は姫役、美風は王子役に決定した。 


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