幼なじみは狐の子。5〜親衛隊と恋〜
教室。
恋が自分の席に座っていると、斜め前の席から、美風が振り返って声を掛けた。
「新田さん」
「樋山くん」
「この間の日曜日、新田さんがどこに行ったか知ってるよ」
そう言われて、恋は
「え」
と固まった。
「向井が写真送ってきた。食べ歩きデート。日曜は僕も誘ったのに、新田さんは断ったでしょう。」
「あ、それは……」
律が強引なので、恋は律と過ごすことが多くなっていた。
この前の日曜日も、恋はお誘いを断りきれず、結局小さなピザ屋で一緒に食事をしてきたのだった。
「まったく。どっちにしろなら、僕とも遊んでよ。こっちは新田さんと遊べるのをいつも待ってるんだから。」
「恋」
美風がそう言った所で、後ろから宗介が来た。
美風は写真の入ったケータイを閉じると、頬杖をついてまた別の話を始めようとした。
だが宗介は2人の話を聞いていたらしい。
手をグーにしてコツンと恋の頭に落とすと、怒り笑いの笑顔で言った。
「今のは向井との浮気の分ね。」
「性格悪い、いちいち打つなんて。大した浮気じゃないだろ。」
「当然。僕は恋が僕以外と出かけるのは許せないんだ。樋山には関係ないね。恋。」
「ちぇ……」
恋は頭を抑えて、悪気があった訳ではない事を宗介に説明した。
「お前がそれをどう思うかじゃなくて、向井がそれをどう思うかなんだよ。言い訳は聞かない。まったく分かってないんだから。」
「……」
「嫌だ嫌だ。上野が新田さんを叱ってるのも惚気に見えて。そういうカップル会話、どうにかなんない?。悔しいったらない。……僕だったら多少の浮気は流して許してあげるけど。上野は当たりがきついね。」
「樋山くん、言って」
「嫌だよ。新田さんは、上野に叱られて上野を嫌いになれば良い。僕はその線で待ってるんだ。泣くなりなんなりしてよ、なんて。」
「……」
「樋山の言う事なんて聞かない。恋、次はないから。ったく」
「僕と付き合ったら、多少の浮気は笑って流してあげられるよ。もっとも本命が僕でならだけど。考えない?」
「樋山は黙れよ。鬱陶しい。」
2人の言い合いに、恋はほう、とため息をついた。