秘書の想いは隠しきれない
チラッと社長のうしろと玄関を見た。
恵梨香さんらしき人はいないし、女性物の靴は見えない。
「社長。もし良かったら、差し入れです。水分補給と栄養、しっかり摂ってください。薬は飲みましたか?」
私はスポーツドリンクと生姜湯、冷却シートなどが入った袋を渡す。
「差し入れありがとう。薬は飲んだよ」
社長はニコッと微笑んでくれた。
「じゃあ、私はこれで」
ペコっと頭を下げ玄関から出ようとすると
「花蓮さん」
社長が私のことをうしろからふわっと抱きしめた。
「えっ」
私の腰回りに社長の手が……!!
緊張で身体がこわばる。
ピンと背筋を伸ばした状態で硬直している私に
「花蓮さん。こんなことされて、俺のこと怖い?」
耳元で神木社長が呟く。
「怖くないです」
神木社長は私のヒーローであり、大好きで憧れの人。怖いなんて思わない。
そっか。この前の宮下さんのことを気にしてくれているんだ。きっと男の人恐怖症だと思っているのかな。
「じゃあ、もうちょっとそばにいてくれないかな?」
そばにいる?神木社長の!?
喜んでと叫びたいけれど、いいのかな。神木社長には恵梨香さんという婚約者がいるのに。私を家にあげても。
ああ、そうか。違う。
神木社長は私のことを女性とは思っていないんだ。秘書という役職だから、きっと甘えてくれているんだ。
「はい。私で良かったら」
ノーなんて言えない。
「良かった」
社長は私から離れ
「どうぞ」
部屋に入れてくれた。
長い廊下を歩くと、夜景が見える部屋と広めのリビングにキッチン。寝室と仕事部屋だろうか。
私の住んでいるアパートとは比べ物にならないくらい広い。部屋も綺麗だ。
机の上にいろいろ散乱しているけど、具合が悪いからで、きっと普段は整えられているんだろうな。
「お茶でも淹れるね」
社長の言葉に
「いいえ。私が。キッチンとか使って良ければ自分でやります。社長は病人なんですから、横になっていてください。ご飯は食べたんですか?困っていることは何かありませんか?」
咄嗟に反応してしまうのは、普段の秘書としての役割からでもあった。
「ご飯、面倒でまだ食べてないんだ」
アハハと社長は苦笑いを浮かべている。
「ではキッチンをお借りします。社長は寝ててください」
おかゆくらいなら作れる。
「え、花蓮さんが作ってくれるの?楽しみ。俺、ソファで寝ているから」
「ダメです。しっかりとベッドで休んでください」
「やだ。せっかく花蓮さんが部屋にいるのに。別室なんてもったいないじゃん」
やだって。なんですか、その子どもみたいな感じ。可愛らしすぎるんですが。
いつもの神木社長らしくない発言に戸惑いながらも
「わかりました」
そんなことを言われたら返事をするしかない。
社長はフフっと笑い、ソファに横になってくれた。
社長に事前に許可をとって、冷蔵庫の中を確認する。あまり食材がない。
自炊はしないって言っていたから、何もないのは当たり前か。鍋とかあるのかな。
うーん。
調理器具もほとんどない。土鍋から炊いたお粥とかの方が美味しいのに。
仕方がない。恵梨香さんもお料理とかしないんだろうか。婚約者であれば、この部屋にだって何度も来ているはず。
ご飯を作ったりはしないのかな。
私は卵粥を作り、社長の元へ運んだ。
寝ていると思っていた神木社長は、薄っすら目が開いている。
「社長、ご飯できました。お口に合うか、わからないですけれど」
声をかけると
「嬉しい、ありがとう」
上体を起こし
「うわぁ。お粥だ」
私が作ったお粥を見て、喜んでくれた。
そして
「美味しい―。塩味もちょうど良いね」
お世辞か不安になったが、テンポよく食べ進めてくれる社長を見ていたら、きっと本当に美味しいと思ってくれているんだろうと安心をする。
「花蓮さんみたいなお嫁さんだったら幸せだろうね」
急に言われた言葉に驚きで肩が上がる。
お嫁さんか、私には縁がない話だ。
「社長には恵梨香さんみたいな素敵な女性がいて羨ましいです。お二人がいつも話している姿を見ると、お似合いだなって思っています」
相思相愛、それに容姿も素敵、家柄も。一般人の私には遠い世界の人たち。
「花蓮さんは、そんな風に思ってたんだ」
そんな風にって、社長は何が言いたいの?
「恵梨香は料理もできないし、掃除も洗濯もできない。うーん。できないっていうか、しないだけなのか、俺にもよくわからないけど。とりあえず、花蓮さんが思っている相思相愛の二人ではないよ」
神木社長は軽くふぅと息を吐くと
「ご馳走様でした。美味しかったです」
立ち上がり、食器を運ぼうとした。
恵梨香さんらしき人はいないし、女性物の靴は見えない。
「社長。もし良かったら、差し入れです。水分補給と栄養、しっかり摂ってください。薬は飲みましたか?」
私はスポーツドリンクと生姜湯、冷却シートなどが入った袋を渡す。
「差し入れありがとう。薬は飲んだよ」
社長はニコッと微笑んでくれた。
「じゃあ、私はこれで」
ペコっと頭を下げ玄関から出ようとすると
「花蓮さん」
社長が私のことをうしろからふわっと抱きしめた。
「えっ」
私の腰回りに社長の手が……!!
緊張で身体がこわばる。
ピンと背筋を伸ばした状態で硬直している私に
「花蓮さん。こんなことされて、俺のこと怖い?」
耳元で神木社長が呟く。
「怖くないです」
神木社長は私のヒーローであり、大好きで憧れの人。怖いなんて思わない。
そっか。この前の宮下さんのことを気にしてくれているんだ。きっと男の人恐怖症だと思っているのかな。
「じゃあ、もうちょっとそばにいてくれないかな?」
そばにいる?神木社長の!?
喜んでと叫びたいけれど、いいのかな。神木社長には恵梨香さんという婚約者がいるのに。私を家にあげても。
ああ、そうか。違う。
神木社長は私のことを女性とは思っていないんだ。秘書という役職だから、きっと甘えてくれているんだ。
「はい。私で良かったら」
ノーなんて言えない。
「良かった」
社長は私から離れ
「どうぞ」
部屋に入れてくれた。
長い廊下を歩くと、夜景が見える部屋と広めのリビングにキッチン。寝室と仕事部屋だろうか。
私の住んでいるアパートとは比べ物にならないくらい広い。部屋も綺麗だ。
机の上にいろいろ散乱しているけど、具合が悪いからで、きっと普段は整えられているんだろうな。
「お茶でも淹れるね」
社長の言葉に
「いいえ。私が。キッチンとか使って良ければ自分でやります。社長は病人なんですから、横になっていてください。ご飯は食べたんですか?困っていることは何かありませんか?」
咄嗟に反応してしまうのは、普段の秘書としての役割からでもあった。
「ご飯、面倒でまだ食べてないんだ」
アハハと社長は苦笑いを浮かべている。
「ではキッチンをお借りします。社長は寝ててください」
おかゆくらいなら作れる。
「え、花蓮さんが作ってくれるの?楽しみ。俺、ソファで寝ているから」
「ダメです。しっかりとベッドで休んでください」
「やだ。せっかく花蓮さんが部屋にいるのに。別室なんてもったいないじゃん」
やだって。なんですか、その子どもみたいな感じ。可愛らしすぎるんですが。
いつもの神木社長らしくない発言に戸惑いながらも
「わかりました」
そんなことを言われたら返事をするしかない。
社長はフフっと笑い、ソファに横になってくれた。
社長に事前に許可をとって、冷蔵庫の中を確認する。あまり食材がない。
自炊はしないって言っていたから、何もないのは当たり前か。鍋とかあるのかな。
うーん。
調理器具もほとんどない。土鍋から炊いたお粥とかの方が美味しいのに。
仕方がない。恵梨香さんもお料理とかしないんだろうか。婚約者であれば、この部屋にだって何度も来ているはず。
ご飯を作ったりはしないのかな。
私は卵粥を作り、社長の元へ運んだ。
寝ていると思っていた神木社長は、薄っすら目が開いている。
「社長、ご飯できました。お口に合うか、わからないですけれど」
声をかけると
「嬉しい、ありがとう」
上体を起こし
「うわぁ。お粥だ」
私が作ったお粥を見て、喜んでくれた。
そして
「美味しい―。塩味もちょうど良いね」
お世辞か不安になったが、テンポよく食べ進めてくれる社長を見ていたら、きっと本当に美味しいと思ってくれているんだろうと安心をする。
「花蓮さんみたいなお嫁さんだったら幸せだろうね」
急に言われた言葉に驚きで肩が上がる。
お嫁さんか、私には縁がない話だ。
「社長には恵梨香さんみたいな素敵な女性がいて羨ましいです。お二人がいつも話している姿を見ると、お似合いだなって思っています」
相思相愛、それに容姿も素敵、家柄も。一般人の私には遠い世界の人たち。
「花蓮さんは、そんな風に思ってたんだ」
そんな風にって、社長は何が言いたいの?
「恵梨香は料理もできないし、掃除も洗濯もできない。うーん。できないっていうか、しないだけなのか、俺にもよくわからないけど。とりあえず、花蓮さんが思っている相思相愛の二人ではないよ」
神木社長は軽くふぅと息を吐くと
「ご馳走様でした。美味しかったです」
立ち上がり、食器を運ぼうとした。