秘書の想いは隠しきれない
「私がやります」
食器が乗っているトレイを半分奪うようにして持ち、キッチンへ向かう。
私、変なことを言っちゃった?
社長、一瞬難しそうな顔をしていたし。
料理とか、家事ができないのは、恵梨香さんの周りがやってくれているからだろう。
社長令嬢だから、環境のせいもあるんじゃないかな。
でも神木社長は、結婚したら家事とかしてほしいと思っているのかも。普段から無駄な経費とか使わない人だし、会社の金銭管理の徹底や予算を汲み直したのは今の神木社長だと聞いている。軽減した分を社員の福利厚生に回したのも、今の神木社長だから。
もしかしたら恵梨香さんとそういったところが合わないのかもしれない。
ダメだ、ダメだ、こんな勝手な妄想をしては。
恵梨香さんが嫌いだったら、あんなに笑って一緒に居ることなんてできないよね。
洗い物を済ませ神木社長の元へ向かうと、社長は仕事用のスマホを見つめていた。
具合が悪い時でも、やっぱりチェックしちゃうんだ。
しっかり休んでほしいけど、私が止めるわけにもいかない。
「社長。明日はゆっくり休んでください。明日は重要な会議もないですから。私が対応できる案件ばかりだと思います。何かわからないことがあれば、すぐに社長に報告しますから。私を信じて休んでください」
せめて、自宅で休めるように。
「……。ありがとう。花蓮さんのことだから、退勤前にいろいろと準備してきてくれたんでしょ。俺が不在でも大丈夫なように。うん、明日は休ませてもらうよ。花蓮さんのこと、信じているから。だけど、困ったことがあったらすぐ連絡していいからね?あと、宮下さんには近づかないこと」
嬉しい。信じてもらえた。まだ社長、宮下さんのこと気にしてくれてるんだ。本当に優しい人。
「はい」
返事をしながら、社長の優しさに自然と口角が上がる。
私のことを見ていた社長は、手のひらで自分の顔を急に隠した。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「大丈夫。今の花蓮さんの顔、ダメだ」
ダメだ!?やばい、そんな酷い表情してた?お化粧とか変?
「すみません。見苦しい顔を……」
「いやいや、そうじゃなくてさ……」
その時、社長のプライベート用のスマホが鳴っている。
社長がスマホをタップし、相手を確認すると――。
「恵梨香か」
はぁとため息をついている。
「ごめん。煩いから、出てもいい?」
「はい。どうぞ」
立場的には、恵梨香さんの方が上なのかな。
神木社長は優しいから、はいはいって恵梨香さんのことを聞いてくれそうな感じがするけれど。
<朝陽?今度の土曜日、連れて行ってほしいところがあるの>
朝陽!?そうだよね、婚約者だもん。下の名前で呼んでるよね。社長の下の名前を聞いただけで、ドキドキしちゃう。
朝陽、かっこ良い名前。
そうだ、二人のプライベートな会話なんだから、近くで聞いている場合じゃない。
すっと立ち上がり、邪魔にならないよう、社長から離れようとした。
「ごめん。今日、熱があって会社を早退したんだ。また今後にして?」
<そうなの?えー。また今度?だってそのお店、予約が必要だし、もしもいっぱいになっちゃったらどうするの?>
あれ。今の発言はおかしいんじゃないのかな。
神木社長、具合が悪いって言ってるのに。心配する声もかけないの?
自分の行きたいお店の話って、今は必要じゃないと思う。
ううん、これは二人の話。部外者がとやかく言うことじゃない。
「とにかく今度にして。じゃあ」
<ちょっと!朝陽!>
恵梨香さんはまだ話を続けたいみたいだったが、神木社長が電話を切ったのがわかった。
「花蓮さんっ!」
社長から離れようとしていた私の手を、社長は掴んだ。
「あ、ごめん。思わず掴んじゃった。花蓮さんがどこかに行っちゃうんじゃないかと思って。怖い?痛かった?ごめんね」
バッとその手を神木社長は離した。
「いえ。お二人の会話を聞いてはいけないと思ったので。離れただけです。それに、私は神木社長のことを怖いとは全く思いません。気にしないでください」
神木社長、どうしてそんなに泣きそうなの?
「私、社長がきちんと眠れそうになるまでいますから」
勝手に身体が動いてしまった。
私はソファから立ち上がろうとしていた社長をギュッと抱きしめていた。
「大丈夫ですよ」
どうしてこんなこと、神木社長にしているんだろう。
男性を抱きしめたのは、はじめてだ。それも大好きな人にこんなことをしている。
「落ち着く」
だけど神木社長も私のことを抱きしめ返してくれたから、きっと嫌がられてはいない。
守りたいって、こんな気持ちのことを言うの?
神木社長の悲しそうで苦しそうな顔をみたら、思わず身体が動いていた。
食器が乗っているトレイを半分奪うようにして持ち、キッチンへ向かう。
私、変なことを言っちゃった?
社長、一瞬難しそうな顔をしていたし。
料理とか、家事ができないのは、恵梨香さんの周りがやってくれているからだろう。
社長令嬢だから、環境のせいもあるんじゃないかな。
でも神木社長は、結婚したら家事とかしてほしいと思っているのかも。普段から無駄な経費とか使わない人だし、会社の金銭管理の徹底や予算を汲み直したのは今の神木社長だと聞いている。軽減した分を社員の福利厚生に回したのも、今の神木社長だから。
もしかしたら恵梨香さんとそういったところが合わないのかもしれない。
ダメだ、ダメだ、こんな勝手な妄想をしては。
恵梨香さんが嫌いだったら、あんなに笑って一緒に居ることなんてできないよね。
洗い物を済ませ神木社長の元へ向かうと、社長は仕事用のスマホを見つめていた。
具合が悪い時でも、やっぱりチェックしちゃうんだ。
しっかり休んでほしいけど、私が止めるわけにもいかない。
「社長。明日はゆっくり休んでください。明日は重要な会議もないですから。私が対応できる案件ばかりだと思います。何かわからないことがあれば、すぐに社長に報告しますから。私を信じて休んでください」
せめて、自宅で休めるように。
「……。ありがとう。花蓮さんのことだから、退勤前にいろいろと準備してきてくれたんでしょ。俺が不在でも大丈夫なように。うん、明日は休ませてもらうよ。花蓮さんのこと、信じているから。だけど、困ったことがあったらすぐ連絡していいからね?あと、宮下さんには近づかないこと」
嬉しい。信じてもらえた。まだ社長、宮下さんのこと気にしてくれてるんだ。本当に優しい人。
「はい」
返事をしながら、社長の優しさに自然と口角が上がる。
私のことを見ていた社長は、手のひらで自分の顔を急に隠した。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「大丈夫。今の花蓮さんの顔、ダメだ」
ダメだ!?やばい、そんな酷い表情してた?お化粧とか変?
「すみません。見苦しい顔を……」
「いやいや、そうじゃなくてさ……」
その時、社長のプライベート用のスマホが鳴っている。
社長がスマホをタップし、相手を確認すると――。
「恵梨香か」
はぁとため息をついている。
「ごめん。煩いから、出てもいい?」
「はい。どうぞ」
立場的には、恵梨香さんの方が上なのかな。
神木社長は優しいから、はいはいって恵梨香さんのことを聞いてくれそうな感じがするけれど。
<朝陽?今度の土曜日、連れて行ってほしいところがあるの>
朝陽!?そうだよね、婚約者だもん。下の名前で呼んでるよね。社長の下の名前を聞いただけで、ドキドキしちゃう。
朝陽、かっこ良い名前。
そうだ、二人のプライベートな会話なんだから、近くで聞いている場合じゃない。
すっと立ち上がり、邪魔にならないよう、社長から離れようとした。
「ごめん。今日、熱があって会社を早退したんだ。また今後にして?」
<そうなの?えー。また今度?だってそのお店、予約が必要だし、もしもいっぱいになっちゃったらどうするの?>
あれ。今の発言はおかしいんじゃないのかな。
神木社長、具合が悪いって言ってるのに。心配する声もかけないの?
自分の行きたいお店の話って、今は必要じゃないと思う。
ううん、これは二人の話。部外者がとやかく言うことじゃない。
「とにかく今度にして。じゃあ」
<ちょっと!朝陽!>
恵梨香さんはまだ話を続けたいみたいだったが、神木社長が電話を切ったのがわかった。
「花蓮さんっ!」
社長から離れようとしていた私の手を、社長は掴んだ。
「あ、ごめん。思わず掴んじゃった。花蓮さんがどこかに行っちゃうんじゃないかと思って。怖い?痛かった?ごめんね」
バッとその手を神木社長は離した。
「いえ。お二人の会話を聞いてはいけないと思ったので。離れただけです。それに、私は神木社長のことを怖いとは全く思いません。気にしないでください」
神木社長、どうしてそんなに泣きそうなの?
「私、社長がきちんと眠れそうになるまでいますから」
勝手に身体が動いてしまった。
私はソファから立ち上がろうとしていた社長をギュッと抱きしめていた。
「大丈夫ですよ」
どうしてこんなこと、神木社長にしているんだろう。
男性を抱きしめたのは、はじめてだ。それも大好きな人にこんなことをしている。
「落ち着く」
だけど神木社長も私のことを抱きしめ返してくれたから、きっと嫌がられてはいない。
守りたいって、こんな気持ちのことを言うの?
神木社長の悲しそうで苦しそうな顔をみたら、思わず身体が動いていた。