紅 憐さんのレビュー一覧

★★★★
2008/06/03 08:08
ネタバレ
ケーン

天気のいい、晩夏のこと。

突然、そんな声だか音だかが響いた。

田んぼと田んぼの間、畦道を歩いていた私は、向こうから迫り来る現象に息を――

「わぁ!?」

飲んでいる間に、襲われてしまった。

まるで壁のように降る、お天気雨。

「なに――!?」

嘆いても、雨は凄まじい。

今日は厄日?

そんなことを思った私は向こうの砂利道に、自転車で奔走している男の子を見た。

雨の中、傘を差してすごく急いで……て、あ、なんか自転車がパンクした!?

うわ、チェーンが壊れた!?

ほ、本物の厄日って彼だなぁ……

思いながら、自転車を押し押し急ぐ彼を見送った。

すると――ケーン――また聞こえた音ともに、雨がやんでいく。

いや違う。

雨が、彼についていった……?

なんだろう。

夏の日、それはちょっぴりの不思議だった。

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★★★★★
2008/05/31 03:55
ワスレチャダメダ

私はいたずら好きである。 だから、初対面の人にもいたずらしてしまう。 たとえば、よく冷えた缶ジュースを、ベンチの青年のほっぺたへ、いきなり押し当てるとか。 悲鳴をあげた青年が、なんなんですか、という目で私を見た。 言ってやった。 「驚いた?」 そりゃあ驚きますよ、と返ってきた。 「今まで、こういういたずら、されたことないの?」 ありますけど……と返ってきた。 私はにっこりする。 「不思議だよねぇ、初めてじゃないのに、初めてみたくびっくりしちゃう。これって、何気にすごくない?」 彼が目をぱちくり。 「初めてのって、忘れちゃもったいないよね。こんな風に、いつだって初めてみたく感じられたら……いいよね?」 青年は静かに、そうですね、とうなずいた。 初めての気持ち……それってたぶん、目がさめるくらい、素敵なもの。

私はいたずら好きである。

だから、初対面の人にもいたずらしてしまう。

たとえば、よく冷えた缶ジュースを、ベンチの青年のほっぺたへ、いきなり押し当てるとか。

悲鳴をあげた青年が、なんなんですか、という目で私を見た。

言ってやった。

「驚いた?」

そりゃあ驚きますよ、と返ってきた。

「今まで、こういういたずら、されたことないの?」

ありますけど……と返ってきた。

私はにっこりする。

「不思議だよねぇ、初めてじゃないのに、初めてみたくびっくりしちゃう。これって、何気にすごくない?」

彼が目をぱちくり。

「初めてのって、忘れちゃもったいないよね。こんな風に、いつだって初めてみたく感じられたら……いいよね?」

青年は静かに、そうですね、とうなずいた。

初めての気持ち……それってたぶん、目がさめるくらい、素敵なもの。

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★★★★
2008/05/26 21:01
ネタバレ
月は妖しく彼女は怪しく

歩き疲れて足が痛くなって――私は少しやさぐれていた。

そんな日のこと、線路を大きく跨ぐ橋の上で、女性と出会った。

だれかと待ち合わせなんだろうか、欄干に手をついてボウッとしている。

その視線を辿ると、とてもとても綺麗な月が出ていた。

「綺麗過ぎて妖しい月ですよね」

思わず口をついた。

女性が、えっ、と振り返る。

その人は、なんだか、まさに月光美人という感じだった。

だけど、どこか宙に浮いた目をしていた。

なにか、思い詰めてそうだった。

危ない目だ。

だけど、私になにができるだろう。彼女はなにかありそうだけど、私には……

女性が私を、変な目で見る。

たまらず、私はそそくさと通りすぎてしまった。

と、ちょうど向かいから、男性が歩いて来た。

私はその瞬間、心の中で、彼に託した。

彼女を……救って。

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★★★★
2008/05/26 13:23
ネタバレ
酒場で見た男女は

グラスが空いてしまったので、私はマスターにお代わりを頼んだ。

ちょうどその時、向こうの席で、歓喜の声が聞こえた。

女性が、手酌をしている。しかも、なぜか喜んでいる。

付き添いなのか、そばにいた男性が、小さく笑っていた。

お代わりをくれたマスターに、「あれはなに?」と私は訊ねたが

マスターはゆっくり、首を振っただけで、答えてくれなかった。

たぶん、彼らがなんなのか知ってても知らなくても、マスターは首を振ったろう。そういう人だ。

そういう人だからこそ、

「ね、マスター。ちょっと昔話でも聞いてよ」

人を受け入れるだけの、器がある気がする。

そう人は、だれだって受け入れてほしいのだ。

だれだって、だれだって。

ちびちび飲み始めた私の後ろを、そしてさっきの男女が、通っていった。

あの二人は、うまくやれるだろうか……?

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★★★★
2008/05/24 03:40
ネタバレ
桜の樹の下に

私はその日、夜桜を見ようと思った。

そしたら、女性の声が聞こえてきた。

ほんのりと筋の入った紅色が美しい、桜吹雪の中、女性が、だれかへ向かって話していた。

昔話?

思出話?

なにかを振り返るようにとうとうと喋る彼女は……

どういうわけか、ひとりだった。

電話でも、かけているのだろうか?

それとも、桜が話相手なのだろうか?

だとしたら、なんて風流だろう。

淡く紅を滲ませる桜の樹の下で、思出話。

桜に話しかける、胸のうち。

夜桜を見にきて、素敵な人を見つけたなと私は思った。

思ったと同時に、そういえば、桜が赤く染まる理由は、なんだったかなと考えた。

考えて……ふふ、まさか、と冷笑した。

ある意味、それはそれで風流かな、と思ったけれど……

桜の樹の下で、私が見た女性はひとり、花びらの雨に降られていた。

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★★★★★
2008/05/20 09:19
目を開ければ

黒猫がいました。 黒猫はこちらを見ると、目をぱちくりさせました。 お仕事は一段落した? 訊いてみると、黒猫は少しさみしげに、たくさん満足そうに空を見上げました。 「ええ、一段落ね」 視線を辿ると、マリンブルーの空が眩しいばかりでした。 彼、願いは叶ったよね? 「もちろん。あたしは案内役なの。それに聞こえない?」 ぽすぽす、ぽすん 「ほらあの音。想いが伝わった証拠ね」 そっか 「あんた、人間でしょ?ペットはいるの?」 うん。猫をね 「大切にしてあげなよ。そしたらきっと、この青空を見せてあげられるから」 うん。アナタ、黒猫の天使だもんね 「ばぁかなだれかが勝手に言っただけだよ」 黒猫はもう一度、マリンブルーの空を見上げました。 ぽすぽす、ぽすん。 そんな音を、聞いたような気がしました。

黒猫がいました。

黒猫はこちらを見ると、目をぱちくりさせました。

お仕事は一段落した?

訊いてみると、黒猫は少しさみしげに、たくさん満足そうに空を見上げました。

「ええ、一段落ね」

視線を辿ると、マリンブルーの空が眩しいばかりでした。

彼、願いは叶ったよね?

「もちろん。あたしは案内役なの。それに聞こえない?」

ぽすぽす、ぽすん

「ほらあの音。想いが伝わった証拠ね」

そっか

「あんた、人間でしょ?ペットはいるの?」

うん。猫をね

「大切にしてあげなよ。そしたらきっと、この青空を見せてあげられるから」

うん。アナタ、黒猫の天使だもんね

「ばぁかなだれかが勝手に言っただけだよ」

黒猫はもう一度、マリンブルーの空を見上げました。

ぽすぽす、ぽすん。

そんな音を、聞いたような気がしました。

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★★★★
2008/03/30 22:33
ネタバレ
ちゅっ♪

勝手にキス逃げルール説明♪

まず、自分の好きな人にターゲットを絞ります。

そしたらピンポンダッシュみたく、その人にキス!

そして逃亡!

きっとそんな、恥ずかしくって甘酸っぱい遊びです。

だけど……主人公の女の子は、これが大っ嫌い。

だって……自分の好きな男の子が、キス逃げの対象にされまくりなんですもん。

つんと清ました顔で、べっつにーなんて思いながら

でも実は、だれにも彼にキスさせたくない乙女心……

複雑な思いをポップな感覚で軽やかに読ませてくれる作品です♪

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★★★
2008/03/29 00:37
ネタバレ
も の が た り

この作品は、文字通り『物語』です。

まず冒頭からいきなり、語りかけられてきます。

読者はその瞬間、真っ暗闇に置かれ、目の前の老紳士の言葉に耳を傾けざるをえなくなります。

そして幕が開けば、そこはもはや、綱渡りに失敗してしまった世界……

え?
どういうことですかって?
あなたも質問の多い方ですね。

では、早速この世界へ迷い込んでみなさい。

美味しいコーヒーでも飲みながら、ね。

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★★★★
2008/03/26 11:13
ネタバレ
私の心にも刻もう

作中、最も印象に残った言葉をひねって使わせていただきました。

『俺の心の中にあるスコアボードに刻もう』

大親友との関係を、少年はそう決心しました。

素敵な言葉です。

作中でスコアボードがどのように言われているか……それを踏まえると、この言葉の意味はぐんと深まります。

少年二人は18,44メートルの間を開けて、けれどお互いをしっかりと感じ合えています。

いえ、18,44メートルの距離があるからこそ、バッテリーとしての友情が強くなるんです。


18,44メートル
野球ボール
スコアボード

短い物語の中に、強いインパクトを与える単語がふんだんに使われています。

すっきり読めて爽やかな気持ちになれます。

どうぞお手に取ってみてください。

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★★★
2008/03/26 10:26
ネタバレ
ほのぼのシリアス

ある日、主人公のお姉さんを助けたのは、吸血鬼でした。

そして吸血鬼とお姉さんは付き合うと言い出し……!

弟の孝くんは動転動転また動転。


物語は

少しほのぼのしたキャラ達が織り成す日常から、ある人物の接触によってシリアスになっていきます。

吸血鬼とは人間とは……
吸血鬼と人間との境界……
種族の壁による意識の違い……


集束していく展開はエンターテイメント。

まさにこれからもっと面白くなっていくとこで終わっているので、それなら続編に期待して、星はお預けの三ツ星です。

アナタも、まずは赤い瞳に気圧されてみて。

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★★★★
2008/03/25 19:50
ネタバレ
やっぱりあいつは……!

そんな風に、だれかを決めつけたことはありませんか?

アイツは……だ!
やっぱり……だ!

そいやって決めつけてしまうのは、悲しいことです。
相手のことを、自分のものさしでしか見れてない。

大切なのは、お互いがどう思っているかを伝え合うこと、感じ合うことだと思います。

この物語はそんな、人と人の和解、その先にある平和を描いています。

今、『どうせこんな感じの話でしょ』って決めつけたアナタにこそ、読んでもらいたい。

人を理解することは難しい。難しいから、平和も遠い。

でも、それは絶対不可能じゃない。

だれかのことを少しでも理解できたら……それはきっと、鮮やかに染まっていく紫色の夕焼けのように、素敵なことだと思います。

ぜひ、ご一読ください。

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