祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】

10・エゴイスト

退院してからのキヨは、まるで今まであった事が嘘かのように明るかった。



今日もキヨは、リビングでテレビを観ながら笑っている。




「キヨ?無理しなくていいのよ」


「大丈夫だよ、カンナ。イノリの事はもうどうしようもないもの。だから…歩き出さなきゃ。私も新しい道を見つけるの。いつまでも泣いてばかりいられないからね」


「強くなったのね。キヨも」




カンナは前を向き始めたキヨの頭を優しく撫でる。




「私もキヨを見習わなきゃ。叶わない恋に縋ってないで、歩き出さないとね」

「カゼを諦めるの?」

「一生叶う事がないのなら諦めたいよ」




カンナは庭でケンと水遊びをしているカゼを見つめた。


ケンが放つホースの水は、太陽の光に反射してキラキラと輝いている。




「でもカゼは、いつかカンナを恋愛対象で見るようになるかもしれないよ」


「カゼは見ないわ。きっと幼なじみに生まれた地点で、恋愛対象からは外されたんだと思う」


「…確かに私がカゼとケンを恋愛対象に見る事がないように、“幼なじみ”っていうレッテルが貼られてるのかもしれないね」




“幼なじみ”という特別な言葉は

友情にも愛情にも寄らない

ただ自分の中でその存在を位置づけるだけの言葉。



残酷過ぎる固有名詞。





でも、それだけじゃない。




「…でもイノリは違った。幼なじみだけど大好きになった。だからカゼもわからないよ?カンナはまだ何も解決してないじゃない」



キヨは真剣な眼差しでカンナを見る。


カンナは戸惑った表情を浮かべながら、困ったように微笑んだ。
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