憎悪と、懺悔と、恋慕。
 

 ウチは、リビングも親の寝室も玄関側からは見えない。

 「・・・ちょっと待ってて下さい」

 玄関のドアを開け、お母さんの靴の有無を確認する。

 靴は、無かった。

 溜息と同時にドアを閉めた。

 木崎センパイの元に戻り、頭を下げる。

 「・・・スイマセン。 お母さん、帰ってないです」

 「・・・そっか」

 ワタシの頭上で、木崎センパイが小さな溜息を吐いた。

 「・・・ねぇ早川さん。 もし、早川さんがお母さんと話し辛いなら、オレがしようか??」

 木崎センパイは、なかなかお母さんと話し合いをしないワタシに業を煮やしているようだった。

 ・・・でも、それは困る。

 弟やお父さんに勘付かれる事なく、木崎センパイが動けるとは思えない。

 「弟さんと、親父さんに気付かれたくないんだよな?? そこはちゃんと注意するから」

 木崎センパイはそう言うけど、どうやって??

 お母さんのパート先で出待ちでもするの?? そんな事したら他のパートの人に確実に噂される。 何かの拍子に弟やお父さんの耳に入り兼ねない。

 それに、木崎センパイは受験生だ。

 そんな大事な時期に、そんな事させられない。 させている場合じゃない。

 「ワタシに任せて下さい。 今日、ちゃんと話します。 絶対2人を別れさせます。 だから、木崎センパイは自分の心配だけしてて下さい」

 お母さんが赦せない。

 優しくて親切な木崎センパイのお母さんを裏切って、ワタシの大好きな木崎センパイに迷惑かけて、弟とお父さんを欺いて。

 何やってるんだよ。 お母さん。

 どんだけ馬鹿なんだよ。
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