憎悪と、懺悔と、恋慕。
 
 
 「じゃあね」

 ワタシたちに笑顔で手を振ると、お母さんは改札を抜けて行った。

 『・・・・・・』

 そんなお母さんの後ろ姿を、無言で莉玖と見送る。

 「・・・電車が来るまで居てやるか」

 そう言って、莉玖も改札に向かった。

 ホントは自分がお母さんと離れるのが嫌なくせに。 可愛いヤツめ。

 そんな莉玖を追ってワタシも改札を抜ける。

 「待ってよ、莉・・・」

 前を歩く足の速い莉玖を呼び止めようとした時、『ピタッ』と莉玖が足を止めた。


 莉玖の視線の先には、ホームで泣き崩れるお母さんがいた。

 きっとお母さんは、笑顔でワタシたちとお別れしたかったのだろう。

 泣きたい気持ちを我慢していたのだろう。

 その事は、莉玖も分かっている様で、

 「・・・帰ろっか。 姉ちゃん」

 莉玖が身体の向きを変えて歩き出した。

 莉玖は、大人ぶっていたってまだまだ親に甘えたいだろう、小学生。

 高校生のワタシだって悲しい。 莉玖はどんなに辛いだろう。

 泣きたいけれど、泣けない。

 だって、莉玖が泣かないから。

 ワタシは、お姉ちゃんだから泣かない。

 莉玖は、男の子だから泣かない。

 お母さん、ワタシたちは強い人間に成長しているよ。
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