新緑の癒し手
第五章 光を求めて

 ダレスの悪い予感は、見事に的中してしまう。フィーナがヘルバに連れられ無断で神殿の外へ出たことにより、彼女への束縛が強まってしまった。その結果、監視の目が強められ今まで以上に不自由な生活を強いられ、尚且つ神官からの命令も厳しいものになっていく。

 しかし唯一彼女にとって幸福だったことは、ダレスが自身の教育兼守護者の任を解かれなかったということ。流石の神官もフィーナがダレスのもとへ行っていたことまでは読めなかったらしく、鬱陶しい有翼人のヘルバにフィーナの側に近付いてはいけないと忠告する。

 彼等の捻じ曲がった性格を考えると、自分達が満足するそれ相応の罰を与えなければ気が済まない。それでも、同族ではない有翼人に手をだしたらどうなるのか――という重要な部分に関しては頭が回ったらしく、神官にあるまじき汚い言葉で罵っただけで彼を釈放する。

 予想外のことに、いつもだったら手を出してくる彼等が手を出してこなかった。そのことがつまらなく同時にいいストレス発散の道具が失われたことに、ヘルバは拍子抜けしてしまう。

 やったらやり返すという信念で、彼等と一戦交えようとしていたのだろう「肝っ玉が小さく、口だけの脆弱な人間」と呟いた後、ヘルバが嘆息していたことをフィーナは知っている。

「情けない」

 先程の愚痴に続くように発せられたヘルバの本音に、フィーナは口許に手を当てクスクスと笑いだす。以前の彼女であったら彼の本音に同調することなどできなかった。ヘルバを含め多くの人間との出会いが彼女の精神面の成長を手助けし、今のフィーナは別人といっていい。

「本当に、有難うございます」

「いや、いいよ」

「ですが、ヘルバさんのお陰でダレスに……それに、彼の本音も聞けましたので良かったです」

「だから、礼はいって。そんなことより、これだとあいつとの約束を守れない。まあ、あいつ等は側に近付いてはいけないというのだから、遠くから監視すれば別にいいということか」

「それは、屁理屈では……」

「いいんだよ。あんな奴等の言うことなど、クソ真面目に聞けるわけがない。聞いていてもいいことなどひとつもないし、口を開けば自分にとって都合のいいことしか言わない。それは、君が一番わかっているはず。それに一人になってしまったら、あの馬鹿が近付いてくる」
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