新緑の癒し手
第八章 下された、真意

 心地いい温もりで、フィーナの意識が覚醒する。

 起きないと――

 そのように命令するが、気だるい身体は言うことを聞いてはくれない。それどころ身動ぎすると身体に痛みが走り、特に腰と下腹部の鈍痛が酷い。何故、身体がこれほど痛むのか――まだ覚醒しきっていない思考を動かし、自身の身に起こった出来事を思い出していく。

 そう、昨晩。

 自分が了承し、ダレスに――

 明確に昨晩の出来事を思い出すと、一気に思考が覚醒する。それと同時に、ダレスが抱き締めるようにして横で眠っていることに気付く。抱かれる以前は背中合わせて寝て、先にダレスが起床していたので彼の寝顔を見たことはなかったが、今ハッキリと目撃してしまう。

(やっぱり、ダレスって……)

 竜の人間の血のいい部分が影響しているのか、ダレスは容姿端麗といっていい。娼婦の方々が騒ぐのもわからなくもなく、そのような人物に愛の言葉を囁かれ抱かれた。互いに繋がった感情に胸の周辺がキュっと締め付けられ、その痛みによってこれが本当に現実だと知る。

 一体、どれくらい抱かれたのか途中で記憶がないのでわからないが、心が満たされ充実しているといっていい。しかし身体の方は確実に悲鳴を上げ、その証拠に寝台に横たわっている状態で動くことができない。すると、タイミングを見計らったかのように、ダレスが目を覚ます。

「……起きていたのか」

「うん。でも、ダレスが起きるちょっと前。その……えーっと……お、おはよう……ダレス」

「ああ、おはよう」

 その挨拶に続き、フィーナに向けられたのは、爽やかという言葉が似合う笑顔。寝顔同様にはじめて見た最高の笑顔に、フィーナの頬が紅潮する。まさかこのような状況で笑顔を見せられるとは予想もしていなかったのだろう、ダレスの反則攻撃に心臓の鼓動が速まる。

「……酷い」

「うん?」

 今度は、ダレスにとって予想外といっていい。何故そのようなことを言うのか尋ねると、フィーナはオドオドとした態度の中で、ダレスが見せた笑顔について話していく。勿論、笑顔が見られたことは嬉しいが、だからといっていきなりの笑顔は心の準備ができていないという。
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