檻の中
悪夢の始まり



 ジェットコースターが急降下すると、乗客の歓声が青空に響き渡った。


 芝生にレジャーシートを広げて、わたしたちはお弁当を食べながらその様子を眺めていた。



「この卵焼き、萌が作ったの? 美味しい」


 裕太がニッコリして、味を褒めてくれる。


 男の子にしてはサラサラの黒髪がそよ風に吹かれ、整った横顔のラインがあらわになった。



「ありがとう。ママに教えてもらいながら、一人で作ったんだよ」


「唐揚げもうまい! 萌は料理上手だね」


「あっ、それはママが……」


 わたしたちは顔を見合せて笑った。



 日曜日の昼下がり──幸せなひととき。


 午後も遊園地デートを満喫したわたしたちは、いよいよ迫る閉園時間にも関わらず、園内を
手をつないで歩いていた。


 まだ帰りたくない……。


 そんな思いから裕太の手を握りしめると、彼は少し驚いたようにわたしを見た。



「萌?」


「……。ねぇ、最後に何か乗らない?」


 寂しさを押し隠して明るく言った。



「まだ十五分くらい時間あるから大丈夫だよ」


 裕太は時計に目をやり、わたしの提案を快く受け入れてくれた。


 いつも優しい彼氏。友達にも、かっこいいと羨ましがられるくらい……。


 出来ることなら、ずっと一緒にいたい。


 
 乗り物を物色するわたしの目に、色とりどりの風船を持ったピエロが映った。



「あれ何だろう。ピエロの後ろにある建物。ラ、ラビ……」


「“ラビリンス”。迷路じゃないかな」


「面白そう! ピエロさん、この迷路難しい?」


 わたしはピエロに近づいて、最後のアトラクションにふさわしいか尋ねた。


 ピエロは話すことを禁じられているのか、パントマイムで『分からない……。挑戦してみて!』と答えた。


 そしてわたしたちに風船を手渡すと、ユーモラスかつ素早い動きでラビリンスの扉を開けてくれた。



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