檻の中
ロミオ



 身体を起こす気力さえ失いかけていたけど、ふいにイシザキの言葉を思い出した。


 今日は、裕太のオークションの日……。


 買い手がつかなければ死ぬ。


 そう思うと怖くて怖くて、わたしは逃げ腰になった。


 裕太の死を目の当たりにしたら、きっと本当に頭がおかしくなってしまう。


 でも……。


 身体の節々が痛むのを堪えながら、よろよろと起き上がった。


 このまま逃げたら、一生後悔するだろう。


 強くはなれないけど、逃げるのだけは許されない。


 わたしは、何があっても裕太を見守り続ける……。


 そう決意を固めて、膝の上できつく拳を握りしめた。



 イシザキが来る前にシャワーを浴び、新しい下着とワンピースに着替えた。


 首輪を濡らすのは怖かったが、特に異変は生じなかった。


 石鹸とシャンプーの香りをさせながら、備え付けのドライヤーで髪を乾かす。


 人間らしい生活をしていると、やはり気分がいいものだ。


 裕太のことを考えると、手放しでは喜べないが……。


 どんなに好きな人がいても、やはり自分の命に勝るものはないのだろうか?


 “死ぬときは一緒に”──その気持ちに偽りはない。
 

 しかし、今のわたしは死と縁遠い生活を送っている。


 生きることしか考えていなかった。



 それでも、裕太の運命が決まるのだと思うと緊張で吐きそうになった。


 当たり前だけど、食べ物も喉に通らない。


 わたしは正座をして、頭の中で良いイメージを思い描いた。


 笑顔の裕太……。


 美味しそうに、わたしの手料理を食べている。


 卵焼きに唐揚げ、不格好なおにぎり。



『美味しいよ、萌』



 裕太の優しい声が脳裏に蘇る──。




「何を泣いている?」



 不機嫌そうな低い声に目を開けると、腕を組んだイシザキがわたしを見下ろしていた。





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