春に想われ 秋を愛した夏


頼んだ料理を一通りお腹におさめ、満足感に浸る。
目の前の春斗は、頬を染めてかなりご機嫌な様子だ。
こんな風に酔っているのを見るのは、大学時代四人で集まった時以来かもしれない。

春斗は、元々量を飲むほうじゃない。
私や塔子がガンガン飲んでヘロヘロになると、一番正常な春斗がいつも面倒を見てくれていたっけ。

それでも、時々。
こうやってアルコールに酔い、ほんの数回だけど羽目をはずしたことがあった。
そんな時は、秋斗が春斗の面倒を見ていたんだよね……。

秋斗はといえば、誰よりも飲んでいるはずなのに、顔色一つ変えないという酒豪っぷり。
双子だというのに、こういうところは似ていないのが不思議よね。

秋斗のことを不意に思い出し、いけない。と急いで頭の中から追い出した。
せっかく美味しい料理とお酒に気分がよくなっているというのに、溜息なんかついてしまうような相手を思い出している場合じゃない。

「そろそろ出よっか」

いつもになく酔っている春斗が気にかかり、お店を出ることにした。
レジ前で割り勘にしよう。と言ったら、僕が出すから。と断られてしまう。
そういうわけにはいかないと思っても、ここで揉めるのはスマートじゃないな、とエレベーターへ乗ったときに財布を出した。

「僕が誘ったんだから、おごらせてよ」
「でも、私結構食べたよ」

お腹をさすって笑うと、たまには男らしいことさせて欲しいな。とおでこをツンとされ、ちょっと驚いて春斗を見ると、甘えるような揺らいだ瞳が私を見つめていた。

酔っているせい?

狭い空間で春斗にじっと見つめられて、僅かに心臓が反応する。

どうしちゃったの?

言葉もなく対峙していると、春斗の真剣な顔が僅かに近づいてきた。
私は、思わずヘラヘラとした笑い顔を浮かべる。

「春斗。酔ってるでしょ?」

笑い飛ばすように言うと、うん。なんていまだ真面目な顔をして頷かれ、ドギマギしてしまった。


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