春に想われ 秋を愛した夏


缶ビールの入ったビニール袋を両手に提げ、暑さにめげず意気揚々と自宅を目指す。
玄関ドアを開ければ、部屋の中では熱がこれでもかってくらいに篭っていた。

「あっつー」

すぐにエアコンをつけて、缶ビールを冷蔵庫へ入れて冷やす。
食料の収まる引き出しを物色して、ミックスナッツを手にし、鼻歌交じりにBRレコーダーの電源を入れて、録画してある映画を探す。

「あった。あった」

床に座ってソファを背もたれにすると、ビール片手に映画鑑賞。
ミックスナッツを口に頬張り、ビールを飲むと気分は最高。

そういえば、昔こんなことがあったなぁ。

あの頃、秋斗と春斗は二人でマンション暮らしをしていた。
大学の長い夏休みが始まり、私たち四人は何かにつけては集まって騒いでいた。

ある日、徹夜でシリーズものの海外ドラマをいっき観しよう。と確か秋斗が言い出して、二人が暮らすマンションに私たちは集まったんだ。
たくさんのビールと食糧を買い込み、確か宅配ピザも頼んだはず。

最初は、四人とも目まぐるしく進む内容に、ドキドキしたりハラハラしたりで真剣になって観ていたけれど、明け方近くになって起きていたのは、秋斗と私の二人だけだった。
散々食べて、ビールを飲んだせいか、塔子も春斗も映画そっちのけでいつの間にか熟睡していたんだ。

私と秋斗は、壁を背もたれにして座り、いつ追い詰められても不思議じゃない主人公に目を奪われて、息を飲むようにして画面に見入っていた。
秋斗も隣でずっとそうしているんだと思っていたら、不意に肩へと重みがかかり、驚いて画面から目を離して見てみると、目を瞑った秋斗が私へ寄りかかるようにして寝てしまっていた。
名前を呼んで声をかけたけれど、秋斗は瞼を持ち上げもしない。
さっきまで映画を観てドキドキハラハラしていた心臓が、秋斗のせいで違うドキドキへ瞬時に変わっていく。
すうすうと寝息を立てる秋斗をすぐそばで感じて、私はその後の映画に少しも集中することができなくなった。

肩にかかる重みが幸せで、時々髪の毛に触れてみたり、頬に触れてみたり、小さく名前を囁いたり。
ダラリと床に投げ出された秋斗の手に手を重ね、骨ばった指のゴツゴツした感じをなぞってみたりした。

こんな風にずっといられたら、どんなに幸せだろう。と秋斗を独り占めしているこの時間を何よりも幸せに感じていた。


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