春に想われ 秋を愛した夏


「もう、ここでいい」

溜息交じりに伝えて立ち止まる私に、秋斗は戸惑ったような顔を向ける。

「遅いし。家の前まで送るよ」
「ここでいいってば」

もう、これ以上一緒に居たくない。

「送るよ」
「いいっ」

一緒に居たくないんだってばっ。

これ以上一緒にいたら、心も頭もパニックになりそうだ。

いつだって私は、あなたの存在に振り回されてしまう。
その程度の相手だ、なんて悲しげに思ってみても、どこかで期待している部分もあって。
だけど、今の私には春斗がいて。
どっちつかずの気持ちになっている自分が嫌だし、春斗にだって申し訳ない。
だから、もう。

「……香夏子」

秋斗は、立ち止まったままの私の腕を取る。
秋斗に手をとられ向き合うと、押さえ込んでいた今までの感情が堰を切って溢れ出した。

「どうしてっ!」

深夜だというのもお構いなしに叫ぶ私を怒るでもなく、秋斗は腕を掴んだまま放すことなくじっと私の目を見つめてきた。

「どうして何にもなかったような顔して現れるのっ? どうして、私に近づいてくるのっ! あの日私をふったのは、秋斗の方だよ。私はあの時からずっとずっと秋斗を忘れるために、秋斗を心の中から追い出すためにどんな思いで過ごしてきたかっ。どんなに楽しい事があっても、どんなに友達と笑っていても、必ず秋斗のことが頭に浮かんで、そのたびに苦しくて、辛くて……。秋斗の中では過ぎたことかもしれないけど、私の気持ちは、ずっとあの時のままなのっ。ずっと、ずっと動けないまま、苦しいままなのっ。秋斗にとって私の存在なんてものすごく小さなものかもしれない。だけど、私にとっては違うの。だからっ、……お願い……。もう、私のそばに来ないで……。私の気持ちをかき乱さないでよ……」

最後の方は涙に濡れて、懇願するような叫びになった。


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