春に想われ 秋を愛した夏


翌日のお昼を前にして、春斗からメールが来た。

ちょっと忙しくなってしまい、少しの間逢いにいけないかもしれない。という寂しい内容に私は肩を落とした。

こんな時ほど逢って、自分だけを見ろ。と強引なくらいに言ってほしかった。
ふらつく私の心を、叱り付けてでも繋ぎとめていてほしかった。

逢いたいときに逢えないなんて……。

他力本願に思いながら、沈んでいく心はどうしようもなくて、諦めの溜息をつきながら僅かに残る自制心で、私はただ黙々と仕事をこなしていった。

課長から追加の仕事依頼もないまま、いつもどおり定時にきっかり上がる。
なのに体は、残業をした昨日よりも酷く疲れを感じていた。

フロアの床に大きく溜息をつきながらビルを出ると、人波に流されるように駅まで歩き電車に乗る。
空いていた席に座ったころで、塔子から居酒屋へのお誘いメールが来た。
けれど、とてもそんな気分にはなれずに断ってしまう。

最寄り駅で降り、コツコツと鳴るヒールの音も心なしか元気がない。
繰り返された過去と同じできごとが、心の中を否応なく切なさでいっぱいにしていった。

考えないようにしたいのに、頭の中は秋斗に抱きしめられた昨日のことで埋め尽くされていた。
秋斗にされた、悲しいキスに胸が締め付けられていた。

春斗に逢えていたら、少しは違っていたのかもしれないのに。

まるで春斗のせいみたいに考えている自分が、浅ましくて嫌になる。


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