春に想われ 秋を愛した夏
「おかげで色んな事実が明らかになって、納得いったりいかなかったり。香夏子だけじゃないのよ、悩んでいるのは。愛しい香夏子のために、私も悩んでいたわけよ」
「ごめん、ありがと」
「うん。でね、メール打っておいた」
話の展開が速すぎて、私は塔子についていけない。
「え? なに? 春斗に?」
「ノンノン!」
塔子は、わざとらしく人差し指をピンと立てて否定する。
「いつ香夏子から連絡が来てもいいようにって、変えてなかったんだって。いや、変えられなかったんだろうね。寧ろ、連絡してきて欲しいって、切実に思ってたみたいだし。愛だねぇ」
「え? ちょっと待って、もしかして……」
「秋斗君」
「嘘っ!?」
「ホント。いやぁ、奇跡よね。なんでもすぐに切り捨てるこの時代に、私も秋斗君も後生大事に登録したままにしてあるなんてさぁ」
香夏子とは、大違いだわ。とわざと意地悪発言で私を見る。
「いや、だってそれは、私の場合は……」
私のごにょごにょとしたいい訳を、塔子がばっさりと断ち切る。
「もうすぐここに来るよ。秋斗君」
「えっ!?」
「しかも、めちゃくちゃ慌ててやってくると思う」
ニヤニヤしながら塔子が私を見る。
「待ってよ。え? なんてメールしたの?」
私が動揺して訊ねると同時に、店のドアが開いたと思ったら、ものすごい形相の秋斗が息を切らして店内に駆け込んできた。
「かなこっ!」
キョロキョロと必死に辺りを見回して、私の名前を叫んでいる。
唖然としてしまった私は、ただそんな秋斗の姿を眺めるだけ。