春に想われ 秋を愛した夏
『ていうか。家に居るならこっちに来ればいいじゃない。せっかく春斗君の時間が取れたんだしさ』
「うーん。確かに」
塔子の誘いに乗りそうになったけれど、昼間のようなことになったら二人に心配をかけてしまうかも知れないと思うと、返事が曖昧になってしまった。
『なんかあったの?』
「あぁ、うーん」
私が言い淀んでいると、春斗が塔子と電話を変わった。
『もしもし、香夏子。もしかして、体調が悪いんじゃない?』
春斗ってば、鋭い……。
「どして?」
とぼける私の耳に、心配そうな声が聞こえてくる。
『香夏子、昔も夏に大学で倒れたことがあったから』
「……憶えてたんだ」
あの日、秋斗に送ってもらったあと、春斗と塔子も心配して家にきてくれた。
あの時の春斗は酷く慌てていて、大丈夫だ。という私や秋斗の話も聞こえていないみたいに、病院へ行ったほうがいい。と珍しく強引な態度だったのを憶えている。
結局、その後食事もしっかり食べて体調もよくなり、その夏を無事に越したのだけれど、夏の間中、春斗は私に、大丈夫? と言う言葉を繰り返していたことを思い出した。
『憶えてるよ。だって、あの時の香夏子。すっごく具合悪そうで、病院に連れて行かなくて大丈夫かって本気で心配したし』
「そうだったかな……」
苦笑いが見えていないとはいえ、なんだか真っ直ぐ顔をあげられなくて、電話を持ったまま俯いてしまう。
『何も食べてないんでしょ?』
春斗に言われて、応えられない。
『待ってて、今から行くから』
「え? あっ、ちょっと、春斗――――」
有無も言わさずに、そこで電話は切れてしまった。
参ったなぁ……。
電話に出なかったせいで、なんだか大事になってしまった。