春に想われ 秋を愛した夏
仁王立ちで怒る春斗を何とか宥めすかした後、しばらくしてテーブルには湯気の上がるあったかいうどんが置かれていた。
目の前には、まだ少し怒ったような顔をした春斗が座っている。
食べることを私が躊躇っていると、ちゃんと食べなきゃ駄目だ。とでも言うように強制的に箸を手渡された。
観念した私は、箸を受け取り持ち直す。
春斗が作ってくれたうどんの入るどんぶりからは、とてもいい出汁の匂いがしていて、食欲のわかなかった私も、一口二口と口をつけていくうちに結局全て完食してしまった。
「ご馳走様でした」
箸を置きそういうと、やっと春斗がにこりと笑ってくれた。
その表情に、私は胸を撫で下ろす。
春斗に怒った顔は、似合わない。
「最近、ビールばかりでつまみもほとんど口にしないって野上さんが言ってたから。もしかしたらって思って」
ここへ強引にやって来た経緯を、春斗が説明する。
「昔のことを思い出したら、きっとまたほとんど何も食べずに何日も居たんだろうなって」
言われて肩を竦めた。
秋斗といい、春斗といい。
どうしてこの双子は、私のことをこんなにも解っているんだろう。
気を遣わせてしまっていることが、申し訳なくなってくる。
「心配かけて、ごめんね」
私が謝ると、少しずつでもいいからちゃんと毎日食事を摂ること。と念を押され、私は深く頷いた。