春に想われ 秋を愛した夏
「時間。大丈夫か?」
思わず見惚れたままいると、不意に秋斗が時間を確認してきた。
「え?」
言われて腕時計を見ると、かなりヤバイ。
「うわっ! 遅刻しちゃうっ」
慌ててバッグを引っつかんで立ち上がると、片付けといてやるよ。と秋斗がトレーを見て笑う。
「ありがと」
「急ぎすぎて転ぶなよ。またな」
子供じゃない、と膨れる私に声をかけながら、右手を軽く上げて送り出す。
――――また。
この偶然に、次があるのかな。
そう考えながら、心の片隅でそれを期待している自分に気がついた。
素直な心の反応を抑えようとしながら歩き出してから、もう一度秋斗を振り返る。
スポーツドリンクのお礼を言っていないことを思い出したんだ。
「あきとっ」
カフェの少しガヤガヤとする客たちの声を縫って名前を呼ぶと、秋斗がすぐに振り返る。
「スポーツドリンク、ありがとね」
追いかけるようにしてかけたお礼の言葉に、秋斗が満面の笑みをくれた。