春に想われ 秋を愛した夏


「ああ、そうそう。今朝のニヤニヤの原因は、なんだったの?」
「え?」

油断していた。
訊ねられなくてほっとしていたことを、改めて訊かれて思わず目が泳ぐ。

「いい男に逢ったんでしょ?」

私が動揺しているのをおもしろがるように、ミサはツンツンと人差し指でつついてくる。
さあさあ、白状しちゃいなさいよ。というように。

「いい男って……」

その人差し指を避けるようにしながら苦笑いを浮かべていると。その人と付き合って、同棲っていうのもありかもよ。なんてけしかけるようなことを言ってきた。

秋斗と同棲?!
ありえないよ。

私は、今でも秋斗のことを想えば切なくなるけど。
秋斗は私のことなんか、これっぽっちもそんな風に見ていないんだもの。
せいぜいよくて、昔の友達どまりに違いない。

大体、一度ふられているのに、同棲も何もないよ。
悲しいくらいにありえない確率だ。

「それは、ないよ」

秋斗がくれた満面の笑顔を見て、ニヤニヤと浮き足立っていた朝の気持ちが萎えていく。

あんな笑顔を向けられて勘違いするほど、バカじゃない。つもりだけど。
久しぶりに逢って話したことで気持ちが浮ついていたのは認める。

そもそも、私は一度ふられているんだから。

自分自身に言い聞かせて、期待なんかしちゃいけないと改めて思う。

秋斗と同棲なんて。
天地がひっくり返ったって、ない現実だ――――。



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