【続】三十路で初恋、仕切り直します。

「ねえ今、彼のこと思い出してた?」


指摘されて思わず両手で頬を押さえてしまう。そんな緩みきった顔をしていたのだろうか。焦る泰菜に、優衣がふふっとたのしそうに笑う。


「ほんと泰菜、きれいになったよね」

言われて思わず誤魔化すように「……着ているものの所為じゃない?」と答えていた。


今着ているのは、お気に入りのショップで買った花柄のワンピースで、ゆったりしたカシュクールのラインとラベンダーのカラーがオトナっぽく見える一枚だった。

着替えるのが楽だからという理由だけで着てきたものだけど、本当は法資と出掛けるときに着ようと思っていたおろしたてのワンピースだった。


「それだってさ、泰菜は大学生のときはいつもGパンかチノパンだったじゃない。そういう選択肢が増えただけでも、やっぱきれいになった証拠だよ」


そういって急ににやりと笑い出す。


「なあに?優衣ちゃん?」
「結婚相手を見極めるうえでもう1っこだけすごく重要なことがあるけど、泰菜は何の問題もなさそうだから訊かなくてもいいやと思っただけ」


そういって優衣はますます笑みを深める。そして泰菜の耳元でこっそりととんでもないことを口にした。


「やっぱ夜のおたのしみが待ち遠しくなる相手じゃないとね。長い結婚生活、そういう相性の良し悪しも重要な問題じゃない?でもその点問題なさそうね。泰菜なんか肌ぷりぷりのつやっつやだし。愛されてますオーラ、ダダ漏れしてるし」
「や、やめてよ、優衣ちゃんってば……」


思わず背もたれにぶつかるくらい飛び退くと、優衣が頭をよしよししてくる。


「照れちゃって。泰菜のこういうとこ、可愛くて仕方ないんだろうね、ホウスケさん。……きっと大丈夫だからさ、あとは泰菜がしたいように頑張りなね?」




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