【続】三十路で初恋、仕切り直します。
6 --- おりこうさんへの仕打ち

(6)おりこうさんへの仕打ち




「おふたりさんの馴れ初めってよ、どんな感じだったんだ?」


お酒や料理を愉しみつつも、会話の内容はどうしても法資と泰菜のことに偏りがちになっていた。


「さっきの話聞く限りじゃ、桃木さんが相原ちゃんにぞっこんで猛烈アタックしたって感じか?」
「あはは、やだな、そんな訳ないでしょう!」


法資が何か言おうとしたのを遮って、先に口を開いた。


「まっさかわたしがモテるわけないじゃないですか。こっちから口説きまくってどうにかこの人落としたに決まってるでしょ」


泰菜が笑いながらいうと、作業員のおじさんたちは十人並みの凡人顔の泰菜と誰の目から見てもイケメンな法資とを交互に見遣って、「まあそうなのか」と納得したような顔をする。


全然顔色を変えずに惚気めいたことを口にする法資に、また何を言われるかわかったものじゃなかったから先手を打ったわけだったけれど。



法資は面白くなさそうに、周囲にはわからないよう、泰菜を見て一瞬だけすっと目を眇めた。



模範解答だったと思うのに、何が気に食わなかったのだろうか。不機嫌な目をされる理由がさっぱりわからない。自分はこれ以上人前で熱っぽいこと言われたらとても堪えられそうにないのだから勘弁してくださいよ、と胸の中で法資に訴えていると。




「なあ桃木さん」


だいぶ酔いはじめていた井野が、法資を見詰めて意味ありげににやりと笑った。


「桃木さんはさ、相原ちゃんのどこに惚れたんだ?」


井野のアルコールに染まって緩んだ顔を見て、ちょっとまずい雲行きだな、と気付く。


飲み会も終盤にさしかかり、そろそろお酒で適度な高揚感と開放感を味わってるおじさんたちが、下品トークで盛り上がりだす時間帯になってきた。


「やっぱ性格か?それとも愛嬌のある見た目の方か?」
「もー井野さんってば。そんなのふたりだけの秘密ですから!」


笑って受け流そうとすると「おいおい今は桃木さんに訊いてるんだよ」と怒られてしまう。


「で。どうなの?」


興味深々に法資に尋ねる井野は、危惧していたとおりにやにやすけべそうな笑みを浮かべて法資に絡みだす。


「男前のあんたがぞっこんになっちまうなんて、そんなに具合がいいのか?相原ちゃんのアレは」
「男殺しの名器とか?」


宮原の揶揄する言葉に、作業員のおじさんたちはげらげら笑い出した。

ひとの恋人の前でだけはそういうネタやめてくれよ、と思わず座卓の下で固く拳を握り締めてしまう泰菜だが、
法資はいたって落ち着き払っていた。



「ご想像にお任せします」



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