【続】三十路で初恋、仕切り直します。

いつも体を重ねるときは、ふたりの間にある余計なものを削ぎ落としていくように言葉が引いていき、口数が少なくなるごとに間合いが詰まっていくような緊張感の中、まるで駆け引きをするように視線を絡めて煽り合うように見つめあって。

ついには無言になりぴんと張った糸のようにぎりぎりまで緊張が高められた後、口火を切るように法資が奪うような荒さで唇を重ねてきて、強引なくらいの腕の強さに引き寄せられ、倒れこんだシーツの上で縺れ合うようにしてはじまる。


最中に意地悪なことを言われることがあっても、はじまりはいつも会話を差し挟むことなく、法資には言葉よりももっと雄弁な熱っぽい手や笑みの消えた余裕のない唇、射すくめる様な鋭い視線で「抱きたい」とまっすぐに訴えられる。

その荒々しさに翻弄されながら彼をまるごと受け止めていくのが法資との行為の始まりだった。



だからいつもとは違う、穏やかに会話をしながらセックスに行き着こうとする雰囲気が慣れなくて、はじめのうちはうまく言葉を返せず、法資に触れられながらの会話に言葉少なにしか応じられずにいた。



けれど。



「明日の下見は3つか。とりあえず、おまえの本命のあのレストラン、いい雰囲気のとこだといいな」
「そうだね……っ………評判、いいとこ、みたいだけど……、」


会話をする中でも、ゆるゆると法資の熱が中を侵食してくる。その感触に浸りながら会話をしていることが、気恥ずかしくも不思議なくらい心地よくなってくる。


「でも正直言うと、……会場選びより、衣装選びのほうがたのしみだな……」


和やかな気持ちのまま体を繋げる雰囲気がだんだん馴染んできて徐々にぎこちなかった会話が弾んでくると、鼻先で法資が最中だと思えないくらいやわらかく笑ってくれる。


「和装よりドレス?やっぱ着るの楽しみなんだな」
「……というか、法資の、見たいの。……きっと、すごい、似合うから」





セックスはもっと動物的で、自分の恥ずかしい情欲を剥き出しにされて、それをいちばん好きな相手にあますところなく晒す行為なんだと思っていたから、こんなやさしく穏やかなやり方もあるんだと開眼する思いだった。




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