ラベンダーと星空の約束+α

 

 ◇◇◇


[紫龍 11歳冬]



富良野の大地が白く染まる。

夏には紫色にさざめいていたラベンダー畑も、緑の野菜畑も、今は限りない白さに覆われ、見渡す限りの銀世界だ。



うちの家族にとって、冬は長い休暇のようなものだ。


父さんや祖父ちゃんはアルバイトに出掛けるけど、夏の忙しさに比べたらそれも休暇の内に入れていいだろう。



祖母ちゃん達(紫の母と大樹の母)は、近所の稲田のおばさんと三人で、日帰り温泉に出掛けている。



双子の妹達は、保育園に行っているから家の中は静かだ。


母さんは食卓テーブルに来年度のラベンダー商品を広げ、その袋にペタペタとシール貼りをしている。



そして俺は、リビングにドーンと置かれたベビーベットの中で、すぴすぴ寝息を立てている生後三ヶ月の弟『大地』を、ただ黙って眺めていた。



小学校が長い冬休みに入り、初めは浮かれていた俺だが、

友達にも会えないし、遊び相手がいなくて最近は退屈していた。



祖母ちゃん達に温泉に誘われた時、付いて行けば良かったかな…

けど稲田のおばさんは話し出すと止まらないから、厄介だしな…



退屈…

青空おじさんの所に遊びに行こうか…?

ああ、一昨日から泊まりのお客さんが三組いて、忙しいって言ってたよな。



俺が小さい頃一緒に住んでいた青空おじさんは、今はこの家に居ない。



うちの200メートル離れた隣には、長い間使われていなかったペンションがあって、

青空おじさんの結婚を期にその建物を買い取り、お嫁さんと二人でペンション業を始めた。



儲けはボチボチだと言っている。

ファーム月岡と違い、冬もスキー客が訪れるから一年を通して割と忙しい。



誰も俺と遊んでくれない。

赤ん坊の大地ですら、頬をつついてみても起きてくれない。



大地を眺める事にも飽きて、冷凍庫からカップアイスを取り出し、暖炉の前に座る。



アイスクリームが食べたい気分じゃなかったけど、退屈だからさ。



暖炉の熱で少し柔らかくして、クリーミーになった所を口に運ぶ。

旨い…けどやっぱり退屈。



リビングの壁時計に目を遣ると14時。

はぁ…父さん早く帰って来ないかな……



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