ホルケウ~暗く甘い秘密~



仏間に安置された父の遺体の前で、海間里美は歯を食いしばっていた。

よっぽど激しくオオカミと戦ったのか、遺体の損傷が酷く、衛生面を考慮した結果、明日葬儀が執り行われることとなった。


「里美、お祖父ちゃんが話があるって」


半年後にアメリカのハンター養成スクールへの編入を控えた兄、亮平が気遣わしげに声をかけてきた。

いつもならケンカばかりし、常にどちらが優秀なハンターとなるか競っていた兄にそんな態度をとられ、里美は無性に腹が立った。


(こいつにこんな態度とられなきゃいけないなんて……。お父さん、なんで死んだの?あたしがだいっ嫌いな兄貴に弱さを隠せないでいるのは、お父さんが死んだせいなんだよ)


まだハンターになっていないのに。

まだ高校も卒業していないのに。

まだなにも、親孝行していないのに。


ふつふつと沸き上がる感情が抑えられず、さらにきつく唇を閉じ、里美は亮平についていった。

二階の祖父の自室に入るなり、里美はつっけんどんに切り出した。


「話ってなに、お祖父ちゃん」

「おい」


八つ当たりするな、と目配せする亮平を完全に無視して、里美はまっすぐ祖父に視線を向けた。

その視線を受け止め、祖父、信弘は二人を手招きする。


「座りなさい。大事な話がある。特に里美はよく聞かなきゃいけない話だ」


二人がソファーに座り、話を聞く姿勢が整ったのを見て、信弘は切り出した。


「父さんを殺したオオカミは、普通のオオカミじゃない」

「そんなの……わかってるよ!」


あっさりと理性が剥がれ落ちる里美に、亮平は怒鳴った。


「だから、八つ当たりすんな!」

「ただの獣にお父さんがやられるわけないでしょ!?あの傷見りゃわかるわ!」


そのまま怒鳴り合いが始まりそうだったため、信弘はソファーの下からあるものを取り出した。


「亮平はもうすぐアメリカへ行く。それまでの間は、里美が海間家を仕切らなきゃいかん。そしてこの町の、白川町の森の番人とならなきゃいかん」


信弘の抱えている木箱を見て、二人は怒鳴り合いピタリと止めた。

相当古いのか、今にもボロボロと崩壊しそうなその木箱を、信弘はそっと床におろした。
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