未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
そう言えば、今朝の朝食の時もヒロミは現れなかった。いつも俺の足元に来ては、俺に食べ物のおすそ分けをねだるのに……


「本日は獣医さまの往診があるので……」


ああ、そうだった。ヒロミは週に一度、獣医さんに往診してもらっているが、今日はその日だった。


「使用人全員で屋敷内をくまなく探しましたが、とうとう見つからずに獣医さまにはお引き取りいただきました」

「それは申し訳なかったね……」

「こんな事を申し上げてはなんですが……」


爺やは更に申し訳なさそうな様子で何かを言い掛けた。


「なに?」

「実際のところは分かりかねますが、昔聞いた話では、猫は、その……」


爺やはそこで言葉を切って口ごもった。よほど言いにくい話なのか?


「猫は、何? はっきり言ってくれないかな?」

「はあ。聞いた話なんですが、猫は死を予感すると、そっと人目につかない場所へ移動して、そこで……」

「えっ?」

「縁起でもないのですが、なにぶんヒロミさまはご高齢でいらっしゃるので……」


俺もその話は聞いた事があると思う。いつ、誰から聞いたのかは憶えていないが。

まさか、そんな事……と思いながらも、もしそうだとすると、未来の菊子さんがヒロミを知らない事とピタリ符合するわけで……


などと考えていると、年配のメイドが現れた。


「旦那さま、浅井さまがお越しになりました」

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