未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「“俺”でいいと思いますけど?」

「え?」

「私はその方が好きです。男らしいと思います」

「そうなのか? という事は、“僕”じゃ男らしくないのかな?」

「私は、ですけど……」

「そうなんだ……」


俺は今まで心の中と、ごく親しい男友達との間でだけ“俺”と言い、それ以外では“僕”で通していた。“俺”という言い方は乱暴というか、一般的にあまり好ましい言い方ではないと思ってたからだ。それはさて置き、小松がその方が好きだと言うのなら……


「わかった。少なくても君といる時は“俺”って言う事にするよ」

「はい、ありがとうございます、ご主人さま」

「ご、ご主人さま?」

「そうですよ、ご主人さま。何か欲しい物はありますか? 遠慮なさらず、言ってください。ご主人さま〜」


小松は、少し鼻に掛かった甘えるような声を出し、小首をちょこっと傾げ、目をキラキラさせて俺を見つめた。


「ねえ、ご主人さま〜」


俺が呆然としていると、小松は更に甘えた声、というか、甘ったるい声を出した。まるで何かをおねだりするように。


小松の豹変にびっくりしながらも、何かこう、胸の辺りがザワザワ、もしくはモヤモヤとする感覚があった。もしかして、これが……


「萌えましたか?」

「う、うん。萌えたかも……」


今のが“萌え”というものなのだと思う。


「もっとしてほしいですか?」

「いや、もういい。変な事を頼んで悪かった」


兼続が言った“メイドに萌え”がどういうものかは分かった気がするが、やはり違うと思った。つまり、俺の小松への思いは、“萌え”ではなく、普通に好きなのだと……

< 70 / 177 >

この作品をシェア

pagetop