しっとりと   愛されて
「何かお礼の品をと考えておりましたが、返って困らせてしまってもと思い、勝手ながら送金させてもらいましたので、もしご婚約された折にでも使っていただければ本望だと坪井は言っておりました。」

「そ、そんなことをされても困ります。私は仕事でやってきたことです。お金などいただいては困ります。」

「いいえ、本当の娘だったら、親としてやってあげられたはずのことをしたまでです。どうか坪井の心と思って受け取ってもらえませんか?」

私はゆっくりと静かに専務とお別れができて心が休まった。

専務室は隣りの応接室をリニューアルして、続き部屋に改造された。

専務は倒れて入院する直前まで、全てを孝二さんに引き継いだ。

そして続き部屋には秘書課から秘書を配置し、私を階下のマーケティング部へ移動させた。

「百合乃くん、君は英語が得意だったな?マーケで実績を積んだら、ここを辞めて派遣になりなさい。いろいろな会社を渡って腕を磨くんだ、いいね。君のキャリアが私の望んだものに、必ずそうなれると信じている。」

私は6階のマーケティング部へ配属された。

私は専務の言葉を信じた。

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