悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

2.黒い雨 -由貴-



幼馴染で同居している時雨こと、
金城時雨【かねしろしぐれ】の出勤が遅いのをいいことに
何時もよりゆったりと朝を迎えた私、氷室由貴【ひむろゆき】は
少し遅めの朝食を作っていた。



国家試験をようやく終えて、合格発表までの束の間。



ドキドキしながらも、勉強地獄からようやく解放されて
気分的には少しのんびりとしたい心境。



無事合格となれば、進路に悩んでいた高校三年生の時に
鷹宮の教会で出逢って以来、親友となった緒宮勇人【おのみやゆうと】や
高校時代からの親友である早城飛翔【はやしろひしょう】たちと一緒に、
勇の養父が病院長を務める鷹宮総合病院へと研修・就職が決まっていた。


そして時雨が仕事に出掛けた後は、
午後から、鷹宮が率先して行っているボランティア活動に挨拶がてら
顔を出そうと勇や飛翔たちと話していた。



「おはよう」


リビングのドアを開けて入って来る時雨の表情は
まだ眠そうだった。



「おはよう、時雨。

 体起こすのにお風呂入るなら、行っておいで。
 昨日も遅かったよね。

 氷雨と小父さんの為に警察官になったのは知ってるし、
 いろいろと思う様に調査が進んでないのも何となくわかってる。

 だけど……無理だけはしないでくださいね」


彼、時雨には私も良く知る、
金城氷雨【かねしろひさめ】と言う名の弟が居た。


とある事件に巻き込まれて、
父親と共に同時に亡くなったのが高校三年生の十二月。


それから時雨と私の歩く未来は変わってしまった。



「有難う。
 今日も帰りに寄りたいところがあるんだ。
 だから遅くなる」

「わかりました。
 私、今日は鷹宮に行く以外は特に予定がないので
 用事が終わり次第帰ってきます」

「了解。
 んじゃ、ちょっと体起こして来るわ。

 朝ご飯、軽く食べれるもので宜しく。
 少し胃がおかしい」



そんな会話をしながら、時雨はリビングから
バスルームの方へと移動した。

微かに残るアルコールの匂い。


ここ数カ月、時雨が朝帰りをした日は
アルコールの匂いが残ってるが多い。

時雨のリクエストを受けて、簡単に中華粥を作り始めた頃
私の携帯からメロディーが流れた。

料理中の為、少し遅れて電話に出る。
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