繋いだ手
高まる期待
「うん、いいね」
「――。……あ、はい」

 彼が手の甲で資料をポンッと一回叩く。彼女は慌てて背筋を伸ばし、ぎゅっと寄せた眉根を元に戻した。

「ありがとうございます。では社に戻り次第、早速進めさせて頂きます」
「うん、お願いするよ」

 広げられていた資料を手早く片付ける。テーブルの上に置いてある伝票に手を伸ばした時、彼の大きな手が彼女の手を覆った。

『僕には君が必要なんだ』

 一瞬、あの時の彼がフラッシュバックして、胸の奥がドクンッと大きな音を立てる。
 単純に、ここの支払いをしたいが為に手が重なっただけに過ぎないのだとわかってはいるものの、あの言葉がまだ頭に残っているせいで過度な期待をしてしまいそうになる。いくら今日が休日だからとはいえ今は仕事で彼と会っているわけで、一瞬とは言えそれ以上の事を期待してしまった自分が恥ずかしくなった。

「あ、あの、ここの支払いはこちらでさせて下さい」

 再度、伝票を奪い取ろうと引っ込めた手を彼が握り締め、伝票が彼女の手の中でくしゃくしゃになっていく。彼がゆっくりとその手を掬い上げると、彼女の手を両手で包み込んだ。
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