過ちの契る向こうに咲く花は
 今日の私は、一日使いものにならなかった、と思う。いやきっとそう。
 何度となく気合いを入れ直し、切り替えをしっかりしなきゃと自分に言い聞かせたけれども、どこからか淀んだものがやってきて、いつの間にか手が止まっている。

 そんな私を、水原さんはその度に名を呼んでくれ、角田さんは「野崎さんでも調子が悪いときがあるんだねぇ」と雰囲気良く笑い、ボスは静かに「無理はしなくていいが、部分的にでも集中するように」と苦言を呈してくれた。伊堂寺さんと黛さんは特に何も言ってこない。黛さんが無口なのはいつものことで、伊堂寺さんは敢えて何も言わない様子だった。

 そのまま、上手く集中も出来ず一日を無駄にした。私の仕事なんて全体のプロジェクトの些細な部分だけど、その下っ端部分ができてこなきゃ、上に乗るものも乗れない。来週の出張の準備もせねばならぬのに。

 残業の時間も終え、各々帰路に着く。その途中、週末にやる飲み会の幹事を引き受けてくれた角田さんが場所の連絡をみなにしてくれた。いつもの居酒屋かと思っていたら、今回は違っていた。伊堂寺さんに配慮したのかもしれない。
 角田さんが笑顔で「来るよね?」と確認してきたので、私は考える前に頷いてしまった。元々は楽しみにしていたし、断る理由もない。伊堂寺さんのおかげで行きたい欲求が減ってしまったものの、そこはすっぱり割り切ろうと思う。もうあがいてもしかたがない。

 ひとり、駅まで歩きつつ、そういえばスーパーに寄らなければいけないんだったと思い出す。うっかりそれまで忘れてしまいそうだった。それでは約束事を最初から違えることになる。
 確か、降りる駅のすぐ近くに深夜までやってるスーパーがあったはず。メニューは買いながら考えることにする。
 時計を確認して、急いで帰ることにした。
 何かを考えながら、目的を持って帰るほうが今の私には良さそうだった。

 生活費は、ある程度伊堂寺さんが持つことになっていた。住居費はもちろん、光熱費も。元々暮らしているマンションだし、ひとり増えたところでさして変わらないとそこは私の申し出も却下してきた。それに、なんだかんだで迷惑をかけるのはこっちだと。
 わかっているなら、もうちょっとやりようはなかったのかと思ったのは、秘密。
 ただ食費だけは、半分ずつにしておいた。さすがに気持ち悪かったから、それは私が譲らなかった。
 とはいえ、無駄に食費がかさんでもいいことはない。
 
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