【完】適者生存

ある事件

去年のちょうどこの季節。


私が今日のように玉串を取ってきてくれと頼まれ、鎮守の森へ向かった。


森の少し深く、あまり人目につかない場所で事件は起きた。


「かわいいおねーさんだね。」


私が玉串を取っていると、若い4人組の男の一人が話しかけていた。


その男はニット帽をかぶり、革の上着を着てた。


「コスプレ巫女さん?


超タイプ。


黒髪で色白で。」


ニット帽の男は私を舐めるように見た。


「いいねぇ。


ちょっと着いてきてよ。」


私はニット帽の男に二の腕をつかまれ、引っ張られてしまった。


私は近くにある大きな岩に片手でしがみ付き、必死に引っ張られまいとしたものの、他の3人によってその手はいとも簡単に外れてしまった。


「やめて・・・っ。


離して・・下さい・・・っ!」


私は必死に抵抗した。


「ったく・・・・、うっせーんだよ!」


ニット帽の男は私の顔を拳で殴った。


「ちょっ!


須崎(すざき)センパイっ!


殴るのはナシでしょ!」


どうやら、ニット帽の男は須崎というらしい。


私は痛みにこらえられず、一滴の涙を流してしまった。


「あっ・・・!」


私は殴られた衝撃で地面にうつぶせているような状態になる。


私が流した涙は頬を伝って地面へ落ちる。


「・・・っ!


逃げて・・・っ!」


私は必死に叫ぶものの、4人ともに通じていない。


「可哀そうな・・・人たち。


もう、助けられない・・・。」


なぜか、その言葉だけ聞いた須崎は怒りの矛先を取り巻きから私へ変更された。


「おい、てめぇ。


可哀そうって何のことだ?」


もう、あなたたちは私の力に憑りつかれてしまった。


この、涙の力に。


涙が地面に落ちて大凡(おおよそ)1分半、4人組に異変が起きた。


4人とも、首や胸を押さえながら地面へ倒れていく。


須崎という男が何やら唇を動かしている。


私には、理解できなかった。


何を・・・言っているの?


4人組は地面に突っ伏したまま、微動だにしない。


・・・もう、死んでしまったの・・・?


私はこのことで、二度とこの力で誰も死なせないと誓った。
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