Doll‥ ~愛を知るとき
†07 哀咽
浩也は、板前をしていると言った。
職場は、彼の父親が経営している懐石料理の店。
そこで、あたしと知り合い結婚したんだと話した。
店のことは、覚えている。
ホールのリーダーだと言う女性が面接をしてくれたことも。
黒を基調にした割烹着のような制服も店の造りも、ちゃんと記憶にある。
なのに、そこで働いていた時の記憶は、断片的にしかない。
開店前に掃除をしていたことや予約の電話を受けていたこと、料理をテーブルに運んだり、お茶を入れたり‥。
思い出せるのは、そんなことだけ。
働いていた人達の顔も関わりも、何も思い出せない。