闇に響く籠の歌
第3章
柏木が口にした言葉に、川本と水瀬は何も言うことができなくなっていた。店内はコーヒーの香りがたちこめ、サイフォンがコポコポと音を立てている。

表面だけをみれば、穏やかな喫茶店という雰囲気で間違いない。だが、そこに流れる空気がピンと張りつめていることを圭介は否応なく感じさせられていた。

この場の緊張感をなんとかしたい。そう思った彼は、柏木に声をかけていた。


「柏木さん、さっきの話、もうちょっと分かるようにしてくれませんか? かごめの歌に何かがあるんですよね? その意味、説明してくれると嬉しんですけど」


圭介のその言葉に被さるように、川本も厳しい声をぶつけている。


「だな。柏木、勿体ぶった話し方せずに、誰もが分かるように話せっていうんだ」

「親父さん。それがいけないんですって。今はそんなに高圧的なこと言ったら、いっぺんで上から睨まれますよ」

「そんなの俺の知ったことじゃない。それより、そっちは知ってることを話す義務があるだろう。違うかい?」


半ば脅しともとれそうな川本の言葉に。柏木は思わずため息をついている。しかし、自分が話を振ったという自覚もあるのだろう。その場にいる4人の顔を順繰りに見ながら、ゆっくりと口を開いていた。


「先に言っておきますけど、これはあくまでもネットの中での噂話ですよ? 僕には川本さんたちのような捜査権はないんですから」

「それくらい分かってる。噂だろうが、なんだろうが、情報になりそうなものは手に入れるのが筋ってね」

「わかりましたよ。この話は二つの話題が一緒になっているようなんです。だから、話がややこしくなる。なので、まずは元々のかごめの歌からでいいですか?」

「そっちの話しやすいようにすればいいだろう。とにかく、分かりやすくしてくれ」


柏木の話に川本はどこか投げやりな調子で応えている。それに対して、柏木は態度を変えることなく話し続けていた。


「かごめっていうのは川本さんたちもご存知のようにわらべ歌です。だから、いろいろと違う言葉で歌われていますよね。そのあたりのことは分かってくれますか?」

「当然だろう。同じ歌でも歌詞の違うのがあるくらい、分かっているさ」

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