LAST SMILE ~声を聞かせてよ~



「どうしたんすか?」


そこに立っている桐生さんの傍まで歩く。


桐生さんはふふっと笑ってから口を開いた。


「聞こえてました。何か楽しそうな話し声が。
彼に何を言ったんですか?」


「べ、別に……。ただのクイズっすよ。
 ごくごく簡単なやつ。
 

 あいつ、暇そうだし、なんか数字とか
頭使う感じのやつ、好きそうだったし……」


宗佑の部屋には、数学の教科書とか、物理の参考書とか、
やりかけのパズルとか推理小説とか、沢山散らばっていた。


だから多分、考えることが
好きなのかと思っただけなんだ。


「仲、良さそうですね」


「はぁ?良くなんかないっすよ!?なんなんですか」


「手術、出来そうですか?黒川くん」


「えっ?あ、まぁ、なんとかなりそうっすよ」


桐生さんに聞かれ、俺はカルテを確認した。


最初来た時はとても手術なんて
出来そうもないくらい、体が弱っていた。


だけど今は、なんとか通常に戻ってきつつある。


もう少し日も経てば、宗佑は手術が出来る。


俺は、もうみんなに馬鹿にされずに済むんだ。


そう思っていると、
桐生さんが俺の肩をとんとんと叩いた。


「リラックスですよ。神崎医師」


「はぁ。わかってますよ。
 桐生さんはいつもそればっかりだ」


俺が言うと、桐生さんはにっこりと笑った。


「あ、神崎医師。最近は
 病院泊まりでずっと家に帰れなかったでしょ?
 今日はもう仕事終らせて、帰っても大丈夫ですよ」


「マジっすか?あざっす」


「お疲れ様でした」




何週間ぶりだろう?


家ん中片付けないとなぁ。


久しぶりにケータイを開いて、
俺はびっくりして立ち止まった。



「香奈!?やっべ、忘れてた」




田沼香奈。


一応俺の彼女なんだけど……。


最近忙しくて
連絡するのすっかり忘れてた……。


どうすっかな?
こいつ、いじけると面倒なんだよなぁ。



「はぁ……」


大きなため息をつきながら、
俺は駐車場に停めてあった車に乗り込み、


ここから少し離れた自宅へと車を走らせた。





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