LAST SMILE ~声を聞かせてよ~
今日も回診のため、桐生さんと並んで歩く。
ちらっと横目で見ると、
彼女の黒くて短い髪が風に揺れていた。
「どうかしました?」
「や。別になんも……」
「そういえば、1ヶ月経ちますね」
「え?あ、ああ。そうっすね」
桐生さんは突然そんな話を始めた。
その話か。
もういいっつぅの。
1ヶ月くらいでどんだけ騒ぐんだよ。みんなして……。
「やっと慣れてきたって感じですね。私たち」
「は?」
「だって、パートナーですから」
桐生さんの言動一つ一つに反応する自分が嫌いだ。
戸惑いを隠せずに、俺は立ち止まった。
「神崎医師?ここですよ。
次の患者さん。大丈夫ですか?」
「や。何でもねぇっす」
慌てて俺は資料に目を通した。
「高校生?」
「ええ。事情があって急遽、
ここに新しく入院が決まった男の子ですね」
名前は……。
黒川宗佑。
高校3年生。
昨日入院手続きを済ませた男だった。
高校生で入院生活なんて、
俺だったら耐えらんねぇな。
資料を睨みつけていると、
桐生さんが俺の顔を覗き込んだ。
「中に入りますよ。熱心なのね。緊張してる?」
「な……っ!?してねぇっすよ!!」
俺はムキになってそう叫ぶ。
桐生さんは小さく笑って、ゆっくりとドアを開けた。