レンタルな関係。

◆ピンクトルマリンの意味

 店を出て。

 駅まで続く、夜の道。


 空には丸い月が浮かんでいて。

 透明な光の加減に、空気まで少し澄んで感じる。

 夏の夜にしてはまあまあ涼しくて。


 お店の明かりがひとつひとつ消えていくころ。

 駅の手前で通りかかった、ショーウィンドー。


 私が欲しくて凝視していたピアスのあった場所には、

 青い石のついた、別のピアスが飾られていて。

 ディスプレイも、すっかり夏らしくなっている。


「ここでよく見てたよね、唯衣。今つけてるピアスと同じヤツ」

「うん」

「ガラスにへばりついて」

「恥ずかしながら」

「しかしすごいよね、流川直人。唯衣の欲しいヤツ、ちゃんと買ってくるんだもん」

「…そうだね」


 プレゼントをくれたあの日。

 そういえば、飲むペースがつかめなくて、流川の買ってきたもの全部はいちゃったんだよな…

 思い出して苦笑する。


 緊張した顔で。

 私の耳につけてくれたピンクトルマリンのピアスは。

 ショーウィンドーのガラスに映る私の耳で、

 月明かりと街の明かりに照らされて、淡く光っていて。


「たぶん…いや絶対この店のだよね、それ」

「どうだろ。わかんないけどさ」


 言ってから。

 ふと、目に入った、ウィンドーの中の、左隅。


 宝石類と一緒に、ラッピング袋のオブジェも一緒にディスプレイされていて。

 白い箱に、淡いブルーのサテンのリボン。

 リボンの結び目のところに、シルバーのコイン型の止め具がついていて。


「あ… 同じだ」


 あの日。

 流川からもらった包みを開いたとき。

 目の前にあるラッピングされた箱と同じものがでてきた。

 
「え?」

「流川にもらったものと同じラッピングだ」

「マジ?」

「うん」

「やっぱり、この店で買ったんだ」

「…そうみたい」


 私の耳についているピアスは。

 似てるものとか、どこかの店の同じものとか、そういうんじゃなくて。

 
 本当に、この店のものだったんだ。




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