イジワル上司に恋をして
「本物のバカだな」


「ごめんね、なっちゃん」


あれから数時間経って、ショップ閉店時間間際。
なんとか、お客さんの注文通りの引き菓子を手配することが出来た。

香耶さんが手当たり次第電話して、頭を下げ。ひとつのメーカーじゃ揃わなかったために、同じ商品を扱う別の3社から寄せ集めて。
その間、わたしは黒川に指示されたとおり、印刷会社に急ぎで熨斗を発注していた。

ちらっと黒川のデスクに視線を向ける。


――それらを今、受け取りに走ってるのは、アイツだ。



「ほんと、だめね。チーフなんか肩書きになって、こんな初歩的ミスをするなんて」
「そんなことないです。ミスは誰だってすると思いますし……香耶さんは、わたしたちからもお客様からも、支持率ナンバーワンのチーフですよ!」
「『支持率』って。なっちゃんは面白いなぁ」


残務処理をしながら、香耶さんがやっと笑った。


そうそう。香耶さんは、いつもこんなふうに優しい笑顔でいてほしい。その笑った顔に力があるんだから。


わたしは、封筒に入っている熨斗の確認をしながら話しをする。


「それにしても、黒川さん……って、機敏ですね。やっぱり部長なだけ、ありますね」


自分からヤツの話題を出すなんて、あり得ないことだった。でも、今日の一件から、仕事上では頼れるヤツなのかも、ってちょっとだけ思ったから。
……ちょっとだけね!


「忙しいのに、車まで出させちゃった。なんかお詫び、しなきゃなぁ」


そういう香耶さんは、全然嫌な顔なんかしてなくて、むしろちょっと嬉しそうな柔らかい顔をしていた。

『お詫び』かぁ。普通はそんなこと必要ないだろうけど、香耶さんはアイツと同期だって言ってたし。同期ってそんなもんなのかな?
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