ツンデレ社長と小心者のあたしと……2
ツンデレ社長と小心者のあたしと……2


「おはようございます」


小さく挨拶をすると、オフィスの窓際にある、自分のデスクへと向かった。


自由出勤制度を導入しているこの会社では当然朝礼などもなく、皆がそれぞれに忙しく仕事に追われている。


広々としたワンフロアに、業務用のパソコンが置かれたデスクが数十台。


そして、その一番端にあるのが社長の机だ。


社長室を設けず、会社にいる時には社員と顔を突き合わせていたい。
そんな理由でそこに机があるらしいのだけど、その姿は……まだない。


いや、そもそも今日来るかどうかも分からない。


そういえば、昨日も社長を見かけていない。


それでも、誰一人不安を感じていないのは、全社員がアクセスできるスケジュール管理画面で居場所を把握できるから。


困った時にはいつでもSNSを通じて連絡を取ることだってできる。


それで事足りてしまうから、やりたい!に満ち溢れて仕方のない社長がじっとしている訳が無い。


あたしも気持ちを切り替えて、今日終わらせるべき仕事のファイルを手に取った。


すると、そこには見つめ合う男女のパンフレットが数冊。


もちろん、あたしが結婚する訳では無く、そういう取材があっただけなのだけど……。

「新しいタイプのウェディングを提案したい!」


という企業の担当者から先日渡されたものだ。


その今にも触れそうな男女二人の距離に、首筋の小さな赤いシミが疼いてしまう。




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