◇◇◇


[大正 喜一郎]



自室の窓を開け明るい外を眺めていた。



涼しい秋風が吹く。

通りを走り回る子供達はまだ夏衣だが、大人達は着物の上に羽織りを着ている。



「秋になったな…」


しみじみ思い函館山を見ると、紅葉した木々で赤と黄に染まっていた。



紅葉を目にして、山城屋時計店の娘の三尺帯(サンジャクオビ)を思い出していた。



金魚の尾ひれのような、
朱色に染められた子供の三尺帯。

濃淡が付いたその色が、
今見ている紅葉の色に似通っていた。



三月程前、商店街の老舗、山城屋時計店の若夫婦に待望の第一子が誕生した。



皆大層喜び、この前の百日の祝いの席には僕まで呼ばれた。



ずらりと並ぶ祝いの膳に驚かされる。

尾頭付きの鯛に、さわらの西京焼き、海老真丈に黒豆、ゆり根のきんとん、紅白餅……

まるで正月のようなご馳走だ。



祝いの席の客人達は料理や酒に執心の様子だが、

マリアさんは料理より、
主役の子供に夢中だった。



生後百日の乳飲み子を腕に抱き、彼女は目尻を下げて話し掛ける。



「いいべべ(着物)着せてもらって、赤い帯が似合うじゃないか。

あれ、嬉しいのかい?おばちゃん見てよ、この子あたしに笑ってくれるよ?

いい子だねぇ。めんこいねぇ。

将来は器量良しの美人さんになるよ。楽しみだねぇ」




「アハハッ マリアちゃん誉め過ぎだよ。

そりゃあ私の孫だから、ベッピンさんになるのは間違いないけどさ。ねぇ、あんた?」




「ベッピン?どいつのことだ?

お…こんな所に饅頭(マンジュウ)が……

ああ、すまん、お前か。
干からびた饅頭かと思った」




「あんたぁっ!!」





賑やかに笑いが溢れ、マリアさんは心から楽しんでいた。



彼女は子供が好きだ。

隣の肉の松屋の子守も進んで引き受けるし、

仕事前の昼間、商店街の子供達の遊び相手にもなってあげている。



いつか彼女自身が母親になった時、生まれた子供はさぞ幸せだろうと思う。

そしてその側には僕が……



紅葉を眺めながら、遠い未来を想像し頬を緩めた時、

「喜一郎、入るよ」

いつもの声がした。



「どうぞ」と返事をする前に、襖(フスマ)がスパンと勢いよく開けられる。



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