◇◇◇


[side 喜一郎]


静かな平日の夏の朝、
居住スペースの二階から急な階段を下り、一階に出る。



プライベートと書かれた扉を開けると、そこは珈琲店のカウンター裏だ。



西側のステンドグラスの窓と入口横の小窓を解放し、朝の新鮮な空気を店内に入れる。



微かな潮風に乗り、どこかの教会の鐘の音が小さく聴こえ…消えて行った。



小窓の桟(サン)に手を置き、その余韻までを楽しんでから、窓辺を離れ掃除を始める。



床を掃いてカウンターやテーブルを磨き、花瓶の水を取り替える。



二日前に港の近くの花屋で購入した赤いチューリップは、花弁がかなり開いてしまった。

そろそろ交換時だな。



今は夏。

ほとんどの花屋の店頭からチューリップが消えてしまい、

まだ置いている店をやっとの事で探したものの、

その店にも
「これで次の春までチューリップはおしまいですよ」
と言われてしまった。



珈琲豆の配達の途中で、また花屋巡りをするべきか…

今年のチューリップは終わりだと、諦めるべきか…




この店に飾る花は、赤いチューリップだけと決めている。



チューリップの季節が終わっても、他の花は飾らない。



その理由は僕が好きな花だからではなく“彼女”が好きな花であったから。



この作品のキーワード
純愛  ラブコメ  歴史  切ない  大正  イケメン  年上  感動  大人  珈琲 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。