ただ、そばにいて
■テイクオフ


八月に入ると、気温とともに私の気分は上昇する。

県外の大学へ通っている夏(ナツ)が、趣味のサーフィンをするためにこの地元へ帰ってくるからだ。


夏に生まれたから“夏”
朝の海が綺麗だから“朝海”

そんな安直な名前の付け方は、さすが姉妹だと思う。


私の母親の妹の子供、つまり私のいとこである五歳下のナツは、幼い頃から一緒に遊んで一緒に育った。


『アサ姉は泣き虫だから、俺がついててやらなきゃダメなんだ!』

……なんて、生意気なんだか頼もしいんだかわからないことを言って。

悲しいことや辛いことがあって泣いている時はそばにいて、泣き止んだ後は手を引っ張って立たせてくれるような、そんな男の子。


いつしか少しくらいのことでは泣かなくなったけれど、それでもナツは私のそばから離れなくて、それが嬉しかった。

でも、大学生にもなればさすがに私の周りをウロチョロするはずもなく、彼は遠くの大学を選んだ。


その時に初めて気付いたのだ。

離れてしまうことの辛さに

私がナツを、いとこなんかじゃなく、ずっと一人の男として見ていたのだということに。

< 5 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop