甘く熱いキスで
プロローグ
「エルマーおじさん、どうしてお父様はお母様にいっぱいキスするの?ユリアもしたいのに……」

パーティの途中、ユリアが口を尖らせてエルマーの足元にくっつくと、エルマーはクスクスと笑ってしゃがみ、ユリアと視線を合わせてくれた。

ユリアの両親――ヴォルフとフローラ――は、オーケストラの演奏に合わせて会場の中央で踊っている。

「そりゃ、ヴォルフはフローラにベタ惚れだからねー。でも、ヴォルフはユリアにもキスしてくれるでしょ?」
「ユリアのは、お母様のと違うの……」

ヴォルフがフローラと見つめ合い、時折フローラの髪や頬にキスを落とすのを遠目に見て、ユリアはまだ上手に踊れない自分の足元に視線を落とす。

「どう違うの?」
「わからないけど、違うの!ユリアもお母様と同じがいいの!」

ユリアはドレスの裾をギュッと握って両足をたんたん、と床に叩きつけるように跳ねた。

「うーん……ヴォルフとフローラのキスは、運命のキスだからなー」
「うんめいのキス?」
「そ。フローラとヴォルフは仮面舞踏会(マスカレード)で出会ったんだ。そこでキスをして、火がついた愛だから」
「火をつけたら火傷しちゃう」

ユリアが眉根を寄せてそう言うと、エルマーはまた笑って「ホント、火傷しそうだったよ」と言う。

「ふふっ、ユリアも大きくなったらわかるよ。いつか運命の人と出会って、たくさん愛されて、あの2人みたいなキスをするんだろうね。ユリアの心に火をつけるような……それが、運命のキスだよ――…」
< 1 / 175 >

この作品をシェア

pagetop