甘く熱いキスで

特別なキス

咄嗟に唱えた呪文は間に合わず、剣の先が鼻先を掠める――

「ライナー!」

けれど、その瞬間ライナーの目の前に赤く炎が燃え広がった。

「ぐ、うあぁっ」

アヒムの叫び声が聴こえるが、ライナーには何が起こっているのか見えない。炎はライナーにも襲い掛かるほどの勢いで燃えているのに、まったくライナーを傷つけることはなく、降りかかる火の粉から感じるのは不思議な熱さだ。熱いのに、痛くない。

「ライナー!」

そしてもう一度、愛しい人の声が今度はハッキリと聴こえて、炎の中に飛び込んできた小さな身体がライナーを抱きしめてくれる。

「ユ、リア――っ」

そう名前を呼ぶのと同時に唇が重ねられ、ライナーは驚きに目を見開く。唇が離れると、ユリアはライナーに抱き着いて子供のように大きな声を上げて泣き始めた。それと同時にライナーとユリアを包む炎がパチパチと弾けて、少し肌にしみる。

「ユリア様……」

ライナーはぎこちなくユリアの背に手を回した。宥めるようにそっと叩くと、ユリアはより一層強くライナーを抱きしめた。しかし、その拍子にライナーの傷口を掠めた彼女の手に、ライナーは身体を強張らせ、呻いた。

「ラ、イナー……怪我、して……っ、うっ」

ライナーの血で真っ赤になってしまった手を見て、ユリアがまたぼろぼろと涙を零す。

「わ、たしは……大丈夫、ですから……っ、それより、この炎……消せ、ますか?」

先ほどの様子からしてアヒムが負傷したのは間違いないだろうが、きちんと拘束し、罪を問い詰めなければならない。

「できない。私の炎じゃないの。ライナー!っ、ライナーが死んじゃう」

ユリアが首を振って泣きじゃくる。

意識が戻った途端に、ライナーが斬られる光景を目の当たりにしたのだ。意識を失う前の崖での出来事もあり、ユリアはかなり混乱しているようだ。
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