甘く熱いキスで
第一章:運命の炎

運命のキス

「…………ん」

チュッと音を立てて唇を離すと、ユリアはふぅっとため息をついた。

また、違う。

いや、本当は違うかどうかなんてわからないのかもしれない。ユリアはそれを経験したことがないのだから。ただ、伯父と伯母の話から想像する“正解”とは程遠いキスに落胆を隠せない。

「あのっ、ぼ、僕――」
「ごめんなさい。貴方は私の運命の人じゃないわ」

ユリアが首を振ってそう言うと、先ほどほんの少し唇を合わせた男は「そうですか……」と、か細い声で答え、軽く頭を下げて会場へと戻って行ってしまった。

高い身長と広い背中を見送りながら、後ろ姿はヴォルフ――ユリアの父親であり、フラメ王国の現国王である――に似ているのに、なんてことを思ってまたため息が零れた。

ユリアは近くにあったベンチに座って仮面を外す。月はまだ半分しか満ちておらず、闇を照らすには物足りない明かりを注いでいる。

今日は日が悪かったのかもしれない。両親が出会った日は、綺麗な満月の夜だったと聞いている。そんな風に思って、ドレスの袖で唇を拭った。

それと同時に指先がチリッと熱くなり、ユリアは眉を顰める。

「イェニー、何か用?」
『何か用、ではありません。今日はどちらの仮面舞踏会(マスカレード)ですか?今すぐお迎えに上がります』

「どちらの」なんて聞いてはいるが、彼女の喋り方からして、すでにユリアの居場所には見当がついているのだろう。今日開かれている仮面舞踏会は2つ、今はもう1つの会場でユリアを探し歩いているようで、少し息を切らしている。

「もう2~3人試したら今日は帰るわよ!」
『貴女という方は、また――』

イェニーの長ったらしいお説教の始まりの台詞を吹き消して、ユリアは立ち上がった。
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