甘く熱いキスで

王女のプロポーズ

呪文競技場は静かな場所だ。剣の交わる音もなければ、呪文を唱える声もない。ある程度の間隔で、次にスタートする者の名前を呼ぶリーダーらしき男の掛け声だけがよく響く。

本来、呪文とは言葉を介して自分の気を力として変換する。正確な発音と集中力が必要で、動きながら攻撃力を落とさず呪文を放つことは、容易なことではない。

しかし、この競技場にいる者たちは全速力で走っていようが、敵と交戦していようが、最大の力で呪文を唱えることができる優秀な兵士たちである。

中でも、ライナーは新入りとは思えないほどの動きをみせる。昨日、ユリアが“運命のキス”の相手を確かめに来た時は度肝を抜かれたくらいだ。

「次!ライナー・カペル」
「はい」

ライナーの名前が呼ばれ、ユリアは見学席の一番前、柵から身を乗り出した。間もなく、ライナーがリーダーの掛け声でスタートする。

綺麗なフォームで走るライナーを目で追いながら、ユリアはドキドキとする心臓を手で押さえた。苦しそうに歪めることすらしない涼やかな表情、キレのある呪文が飛ぶ度に感じられるライナーの気に、鳥肌が立つ。

ライナーは障害物を易々と超え、宙に浮かぶ的の赤い印に確実に穴を開けていく。印はひとつずつ違う場所につけられており、目標を定めるのも一苦労だろうに、一寸の狂いもないその手腕にため息が漏れた。炎属性が苦手とする水をいっぱいに含んだ的も難なく燃やしてしまう。
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